不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

信ありてこそ

先日、4年ぶりにロシアから親友が10歳の息子を連れてが来日しました。
久し振りだったのと、現在の状況を考えると言葉に詰まりましたね。
息子さんも大きくなって感慨深い思いでした。以前会った時は5歳ぐらいでしたか。

戦前はJALやアエロフロートでモスクワまでの直行便がありましたが現在はないために、彼らは中国経由でやって来ました。
一般にロシア市民には徴兵の義務が課されていますが、友人が徴兵の年齢になった折、チェチェン紛争が起こり、彼の親は多額の罰金を支払って徴兵免除にしてもらったそうです。ちなみに現在それはできないようです。そのくらい反戦的な家庭で育ったということです。
彼の息子が教室で少し現政権を批判したところ、担任が激怒して彼の机を担任の机の横に移動させたそうです。そして愛国心を養う授業のようなものがあるようなのですが、息子さん含めて多くの子供たちはうんざりしているとか。ちなみに息子さんの担任のご主人は戦争に行っているとのこと。いやいや、日本の戦時中の話のようです。話を聞いていたらノスタルジックな気持ちになったものです。

なお、友人には14歳の娘さんもいるのですが幸いにも彼女の担任は反戦主義者で、戦争を扇動するような授業は自習とかそんな風にしてうまくかわしているそうです。娘さんの周囲の大半はもちろん反戦派です。若い世代はさすがに政府のプロパガンダには騙されないようですね。
とはいえさすがに学校もずいぶん息苦しい所になってきているのがなんとも恐ろしく感じます。本当に子供たちが可愛そうです。

当流の稽古時には世界中からさまざまな国から門下生がやって来て稽古をします。
初めての相手だと名前や国籍を言うのですが、さすがに今回友人は国籍を言うときは恥ずかしいと感じたそうです。自分の国を誇れないというのはどんな気持ちでしょうか。心中察すると胸が痛みます。
また、クレジットカードが使えないので何をするにも現金、しかもルーブルではなくユーロからではないと換金できないのでユーロを持参したそうです。不便な上にルーブルが扱われないというのはロシア人にしてみたら誇りに傷が付く思いではないかと察します。

また、ロシア政府は海外旅行は禁じてはいないものの、ロシア人が海外でどれ程酷い扱いを受けて迫害されているか、繰り返し宣伝をしてロシア国民が海外に行かないようにしているそうです。で、海外から帰ってくると都合の悪い情報やニュースを見知ったのではないかと学校や会社から警戒されるそうです。なので友人も来日前はこの旅行を秘匿して、帰国後もよほど親しい人以外には話さないつもりのようです。海外に行けるだけマシなのかどうか、考えてしまいます。

滞在中、印象深いことを言っていました。
ゼレンスキーは去年3月にプーチンとの講話を蹴って停戦の機会を逃した、ということでした。
そしてプーチンはそのためにゼレンスキーを殺さないと言い、それを逆手にとって彼は最前線にまで行って兵士らを鼓舞した。殺されなかったのはプーチンが話し合いを求めたからだそうです。
さすがにこれはちょっと驚きましたね。

その国、或いはその国の首長がどれだけ信用があるかというバロメーターとして何かいいものはないかと思ったとき、パスポートのビザ無し訪問可能国数はどうかと思った次第です。思い付きでしたがなかなかいい指標だと思った次第。
それでいくと日本は世界でトップクラスの信用度があると言えます。日本政府が諾と言ったら確実に誠実に実行するということが信じられているということだと思うのですがいかがでしょうか?
ちなみにロシアのも調べましたがさんさんたるものでした(笑) 東南アジアとアフリカを除くとほぼほぼ要ビザでした。
友人も皮肉気味に言っていましたが、ロシアの友人は中国、北朝鮮、シリア、イランなどなど、数が少ない上にお騒がせ国家ばかりと自嘲していました。個人レベルに落とし込んで考えても・・・ま、分かりますよね(笑)

2014年にクリミア半島を占領して、ウクライナ東部も占領して、その上2022年2月に侵略してきた国家に対して翌月には対等にテーブルに座って講和会議ができる程度に信用能力がまだあると思っている辺りに驚きを隠せませんでした。実際、キーウで何度もゼレンスキー大統領は命を狙われていることはロシア以外の国にはよく知られている事実です。
反戦主義の友人ですら、なかなかにメディアの真偽を明らかにすることは難しかったのでしょう。独裁国家と言うのはそのようなものだと思います。
世界に於ける立ち位置、国家の信用度がどれだけのものか、海外旅行をする人、海外赴任、海外留学をしている人なら何となく分かると思います。
普通に考えてもこの状況下でプーチンの提言は信用できないですよね。しょっちゅう暗殺もするし(笑)

国家の信用度というのは政府に象徴されますが、民主主義国家の場合は政治家を選ぶ国民そのものと言って差し支えないと思います。なので日本人が世界にバカ正直なぐらい誠実にしていることが日本の信用度を高めていると言えます。世界どのこに行っても基本日本人であれば悪い意味で怪しまれることは少ないと思います。それは国民1人ひとりの言動や姿勢に掛かっていると思います。

ロシアでは今、反戦派の人は肩身を狭い思いで生きていますし、多分サイレントマジョリティーもその多くは戦争を望んでいないと思います。特に2000年過ぎから経済的に繁栄してきたこの幸福をチャラにしてまで侵略をしたいと思う人は本当に少数です。それでも戦争が起こってしまうのはロシアが民主主義国家ではないからです。普通に独裁政治ですね。これをどう変えていくべきなのか、当のロシア人である我が友人ですら分かりませんでした。今や反戦デモなどしようものならすぐに逮捕される状況下で民主主義を唱えたところで効果はないと思います。

もっとも日本とて近代化や完全な民主主義国家のきっかけは米国の介入があったので、自決主義で今のようになったわけではありません。なので日本人もエラそうなことは言えません。

巨大な悪の機械が狂った方向に動いているとき、一般市民は本当に無力だと痛感させられ、戦慄せずにはいられません。

とにかく早く戦争が終わってほしいと思いますが、それ以上にロシアが正常な民主主義国家になってほしいと痛切に願うばかりです。

令和五年神無月二十四日
不動庵 碧洲齋