不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

ロシア国民に関する考察

私は2010年に初めてロシアを訪れてから、2019年までに平均年1回訪れました。なのでトータル10回程度でしょうか。またそのうち数回を除き、ほとんどがいわゆるホームステイでした。恐らくロシアでホームステイをした方は日本人にはかなり少ないと思います。
その間、現地のロシア人の友人たちと色々話す機会がありましたが、今回ロシア人の政治観、国際政治観について私が感じたことを書いてみたいと思います。

まさかこんな事態になるとは思っていませんでしたが、私は行く度にロシア人友人たちに「選挙は重要だ、投票には行くべきだ、例えそれが公正なものでなくとも行って白票を入れるという行為は民主主義においては重要である」と結構しつこく言っていました。
対するロシア人の反応は一般に薄く、彼らが政府が行っている選挙は単なるパフォーマンスで選挙の結果はほとんど反映されていないので行っても仕方がない、という空気でした。実際にざっくり投票に行っているのは2-3割程度でしょうか。当然ながら政治意識が強い人だけが行っています。もちろんそれがあまり活きていないことも承知ですから彼らの無念さは推して計るべしです。

一方でプーチンに対する信頼は高いものがありました。強引で傲慢な部分もありますが、ソ連崩壊後から10年程度は混乱にあったロシアを牽引して今のロシアにしていったのは間違いなくプーチンの指導力です。ロシア人にして見れば優秀なリーダーがいるのだから選挙がなくても問題ない、選出過程よりも今優秀なリーダーがそこにいるという事実が重要だ、という感じです。私がロシア人でも多分同じことを言ったかも知れません。

我々からすれば民主主義から逸脱していれば、例えたぐいまれなる政治能力があっても問題視しますが彼らロシア人は違います。約30年ぐらい前までは社会主義国家で一般市民には政治的権利はありませんでしたし、それ以前はロシア帝国でしたから更に権利がなく、臣民というか奴隷に近い人も多かった。つまり彼らは普通の民主主義というものを経験したことがないのです。更に帝政時代、社会主義国家時代に較べると今が一番よいと感じています。これを以てロシア人は民主主義を知らないと非難するのはフェアではないと思います。

日本とて自助努力はかなりありましたが、今の民主主義になるにはペリー来航と大東亜戦争敗戦という、あまり認めたくないですがアメリカの強引な介入なしには成し得なかったことを考えると、自助努力で専制政治、或いは封建政治から民主主義になるのはほぼ至難の業と言えます。それでも日本は世界的に見れば神の僥倖に恵まれたと言ってもよいぐらい上手く行った例ですから、普通の国が普通の民主国家になる難しさたるや想像を絶します。

ロシアに行った時、一部の特権階級が法を無視しているのを見ましたし、警察官でもとても善良な公僕とは思えない輩もいました。市民はそれらを見て見ぬ振りをしているだけです。逆に言えばちょっとぐらいのことであれば目をつぶっても今の平和を享受できるメリットが多いという事でしょうか。

同じようにプーチンの地位も公正とは言い難い方法で国家の首長となっても、成果を上げているのだから良いではないかという感じでしょうか。面倒で回りくどい民主主義の手続きよりも、優秀なリーダーが今現在国を引っ張っていると言う事実の方を取る市民が多いという事です。これを責められる人はあまりいないと信じたい。

それもあってか、ロシアに1人だけ「自称人権派弁護士」と公言していた人がいましたが、私たち民主国家市民からすると笑止レベルのクオリティーでした。法律はまあ専門家なのだろうけど、人権の尊重というのか、基本的人権の何たるかについては全く自覚がなさそうに見受けられました。

残念ながら友人の何人かは開戦当初、ガチでプーチン支持派でウクライナ侵攻を良しとしていました、信じがたいことに。さすがに今はどうか分かりませんが、まだ支持していたら救いようがないですね。最も近しい友人はとうとうロシアから家族共々脱出しました。胸が痛みます。今ロシアから離脱する人は100万人を越えているそうですが理解できます。たぶん、そういう人たちは勇気と行動力と良識があるロシア人なのだと思います。(と言っても残留しているロシア人を非難する気にはなれませんが)

ロシア人の中には今でもプーチンを支持している人はそれなりにいますが、私の推察ではそれは多分独立メディアで言っている程度だと思います。それ以外は自分の保身のために同調している人が多いのではないでしょうか。国家に反逆するというのはそのくらい恐ろしく勇気が要ることです。

彼らの言う「我々の国家」という敬愛の念の大半は政治的な部分を含んでいない気がします。政治は社会主義国家時代、帝政ロシア時代を通じて民のものではないからです。日本とて政府を含めて「我々の国家」などという感覚を持ったのは多分大甘に見ても20世紀に入ってからではないでしょうか。しかも未だに多少の語弊を恐れずに言えば「一党独裁」みたいな体たらくです(笑) 日本人が中国の共産党政権についてとやかく言える資格があるかどうか私は微妙に思います(笑) 結局日本人の政治センスすらせいぜいこの程度だということです。

このような状態が今回ウクライナ侵攻という事態を引き起こしてしまった一端ではあると思いますが、個人的にはそれだけ政府を信用していないのならどうして国営メディアを信じるのかと、これだけは少々腹は立ちます。ただ国家によるメディアでの刷り込みというものは恐ろしく、メディアすらコントロールしている国家権力は割に労少なくして国民を誘導できるようです。この辺は国営メディアがない日本も簡単にフェイクニュースに騙されている人を多く見ているとロシア人とそれほど能力的には変わらないと思います。

一般に日本人はロシアという国に対してはほとんど親しみを感じませんし、ロシア人にはなじみを感じませんが、ロシア人は理由は分かりませんが、日本人が過去の遺恨を持っているのをある程度理解しているにも拘わらず結構な親日家が多いです。要するに日本人はもっとロシア人を知る努力をして欲しいと思います。私の独断と偏見ですが、親しくなればアメリカ人よりはずっとロシア人の方が親和性があると思いますよ(笑)

念のために書いておきますがこれを以てロシアのウクライナ侵攻を肯定するものではありません。あくまで日本人にはかなりなじみの薄いロシア人の資質を私の目線で書いただけです。ご了承下さい。

令和五年弥生朔日
不動庵 碧洲齋

*写真は冬のロシアに行った時のもの。モスクワから北に500キロほど行った場所にある城塞と寺院。寺院は世界遺産に登録されています。冬のロシアの風景はため息が出るほど美しいものでした。