不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

「虎の巻」は何処に

先日、海外同門から面白い質問を受けました。
「『虎の巻』はどこで見つけることができますか?」
おかしみを感じつつもなかなかに味のある質問であるとも思った次第です。

『虎の巻』とは古代から中国にて代表される兵法書、すなわち「孫子」「呉子」「尉繚子」「三略」「六韜」「司馬法」「李衛公問対」の中の「六韜」第3巻目に収められている章が「虎の巻」の出典です。六韜の名の如く全部で6章ありますが、軍隊を動かすための基本的な方法論がこの「虎の巻」に書かれています。
そこから転じて秘伝や奥義などが書かれた巻物を「虎の巻」と言うようになりました。
私は高校の時から中国史が好きだったので、もちろん兵法七書はその頃から読んでいました。ちなみに六韜の作者は前漢創建の始祖、劉邦の功臣であった張良が若い頃に黄石公という老人からもらったことになっています。実際にこの六韜は戦国時代にはすでに書かれていてよく知られた兵法書だったようです。

武芸を嗜んでいる方ならよく分かると思いますが、秘伝や奥義はいくら探し回っても決して見つかる類のものではありません。
それは全て常に自らの足下にしかないものだからです。
あるいは自分の背中に書かれている、自分の顔に書かれているものと心得ます。
せっかくそれが自らの体に浮き上がってきたのに未だ自覚できなかったり、その逆、書かれていないのに書かれているつもりになったり、色々です。

実際全くの素人が奥義や秘伝を読んでも多分ほとんどはチンプンカンプンか、意味のある言葉には感じられないはずです。
他の喩えで言えば朝起きて夕飯を食べる気にはならないのと同じでしょうか。
ふとした機を察する力、自然それを知る力が備わっての奥義、秘伝です。

私はそのように考えています。

令和五年水無月二十三日
不動庵 碧洲齋