不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

ノーチラス号の言葉

"Mobilis in Mobili"
これはジュール・ヴェルヌの「海底二万里」に出てくる潜水艇「ノーチラス」号内の食器などに記されている文字ですがフランス語で「動中の動」という意味だそうです。
初めてこれを読んだとき武芸的にもなかなかセンスある言葉だと思ったものです。
格闘においては全て動中に動ありと捉えなければ生き残ることができません。
動いている中での動き、つまり・・・
例えば相手が動いている間に我が身を動かし活路を開く。
或いは我が身を動かして相手を誘い動かす。

物理的に停止したものを再び動かすよりも、既に動いているものを加速させる方が遥かに楽であることはご存じだと思います。
完全に停止して固着していれば限りなく安定して、バランスが崩れて倒れることはない代わりに、動かなければそもそも攻撃や防御ができません。
さりとてユルユル動いているだけでも容易にバランスが崩れます。
この静動のさじ加減が格闘に於いては重要だと思います。
格闘する以上は動かざるを得ないが、対抗する側から言えば動いているときに正しく対応できれば相手が止まっているよりも容易に対抗ができます。相手は動いている、つまり柔軟度がある上に体の一部を加速させて慣性を持っている状態だからです。それを加速させるのは更に楽です。

よく考えれば時間の流れの速さは違っても単細胞生物であっても自然の巨巌でも時間を経て必ず変化しますし、太陽系も太陽を中心に惑星が自転公転しているだけではなく、太陽系そのものも銀河系の中で常に移動しています。踏みしめる大地からして移動しているという事実に時折この"Mobilis in Mobili"を思い出すことがあります。固定観念も悪だと考えられていますしね。

私の武風は水の如くですが、まだまだ濁っていたり粘性が高く、もっともっと清水のようにすべく、精進せねばなりません。

令和五年水無月二十一日
不動庵 碧洲齋