不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

義に還る

私が尊敬する人物の中にユダヤ人に関わった人が2人います。
1人は杉原千畝領事、もう1人は樋口季一郎将軍。共に昭和時代の大日本帝国官僚です。
どちらも本国がナチスドイツと同盟を結ばんとしているときにユダヤ人たちを避難させるために日本入国のビザを発行したり、当時同盟国であった満州国と日本を通過させる許可を与えたりして欧州諸国から逃げてきた多くのユダヤ人を救いました。当然ながら本国政府はかなりご立腹で、杉原領事は戦後長い間、政府から無視し続けられてきました。樋口将軍がユダヤ人に対する避難を援助し始めたのは1938年頃ですが、政府が樋口少将の行動を問題視したものの、当時彼の上司であった東条英機は樋口少将を支持しました。私の祖父は東条英機と親交があり、終戦時までによく家を訪れて幾つかの書を遺したほどでしたが、戦後家の安全のためにそれらはずべて焼却されてしまったそうです。以前親族の集まりで叔父がぼそっと「東条さんは世間で言われているような悪い人ではなかったんだがなぁ」と言っていたのがとても印象的でした。

人種も宗教も違う、当時国を持たなかったユダヤ人を国策に反してまで2度救ったこの事実に、私は彼らもまた、国を失った他の民族がいたらに温かい手を差し伸べてほしいと期待しました。イスラエル国の歴史(ユダヤ人の歴史ではない)を見ればどの国に責任があるか一目瞭然ですが、それはどこであれユダヤ人たちにもっと調和と寛容を期待したかった。
他国への侵略やテロは決して許されるべきではありませんが、その民族の民が調和と寛容を尊んでいれば大抵の問題は片付くものだと、私は割と本気で信じています。日本でも戦争はありましたから日本だけ汚れなき地位というわけではありませんが、少なくとも直近80年近くは戦争をしていません。これから先ずっと戦争をしない訳にはいかないと思いますが、隣国に中国、ロシア、北朝鮮があるというある意味かなり恐ろしい地理条件であるにもかかわらず、平和というか不戦を維持してきた努力はひとえに日本人の努力の賜だと思っています。だからと言って憲法9条がいいというわけではなく、もちろん憲法は改正されるべきだとは思っていますが。

友人に少なからぬ数のユダヤ人、あるいはイスラエル人がいますが、中には閉口するようなナショナリストもいます。先日などは日本で行われたイスラエル支持のデモの動画を私に送り付けてくるような愚か者がいました。私はこういう手合いは大嫌いです。留学時代には中東の留学生と結構中が良く、彼らの文化にも親しみました。個人的には中東の問題、あるいはイスラエルとその周辺の問題は自業自得と思わなくもありませんが、他宗教や文化に寛容ではないことはあまりいい結果を生まないと思います。もっともそれは日本でも今後そのような問題が深刻化するかもしれないので日本だったらうまくクリアするとは思えませんが。日本は過去にも琉球民族やアイヌ民族に対してイスラエルのことを言えないほどに差別してきた歴史もありますからやはり日本も傷を持つには違いありませんが、取り敢えず現代ではほとんど大きな問題にはなっていません(多分)。イスラエルとガザ地区の人々やイスラエルに弾圧されている人々もこのようになってくれないものかと常々思います。

私は(多分多くの人もそうだと思いますが)どちらかが完全に悪いなどと言う状況は滅多にないと思います。絶対悪と絶対正義というものは昨今のアニメや特撮ヒーローものにさえ存在しません。なので政治について私はあまり語りたくありませんが、私は大勢の人が殺されているということに批判はしても、ガザ地区側、イスラエル側、どちらにも問題があると思っています。強いて言うならガザ地区がイスラエルによって支配されている以上は若干、イスラエルの責任が大きいように思うだけです。

 

令和五年神無月十五日

不動庵 碧洲齋

杉原領事(左)と樋口将軍(右)