露国民の政治感覚
ロシアの旅行中、一般家庭を訪れることが多いので北方四島問題や政治の問題にまで話しが及ぶことが多々あります。
今回はちょっとロシアの政治について、一般市民の感覚を紹介したいと思います。
「ソビエト社会主義共和国連邦」という国家は1922年から1991年まで存在した、いわゆる「東側陣営」の本丸でした。今から約26年前に崩壊して、現在はロシア連邦になっています。奇しくも日本の昭和時代と数年を前後してほとんど同じ時代でした。
自由度が少なかったとか、KGBが市民を監視していたとか、食糧配給のために寒い中で長い行列を作って待っていたとかいうのは今や懐かしの話し、日本で言えば昭和時代のノスタルジックな感じでしょうか。
今、モスクワに行っても他の欧州諸国の大都市とほぼ同じ感じです。若者の服装や居ずまいはごく普通の欧米の若者です。多分見分けが付かないと思います。ま、ひいき目に言えばイケメン美人の割合がダントツに多いぐらい(笑) 露国友人仲間曰く「シャラポワは中の上ぐらい」だそうです。確かにモスクワの街を歩いているとあのくらいはごく普通に街中を歩いています。
26年というのは国家が変化して、国民が対応するには長いのでしょうか短いのでしょうか。政治体制が激変した場合は短いと思うのですが・・・。ちなみに日本の場合は江戸幕府が倒れて明治時代になり明治26年にはすでに憲法が発布され、2回目の衆議院総選挙が行われた後、清王朝との雲行きが怪しくなってきた頃です。驚くことに翌年にはイギリスの治外法権の撤廃に成功しています。
・・・しかしこれは日本の話し。歴史的に物事が進められる場合、日本の標準は全く通用しません。普通はもっと時間がかかり、問題山積します。世界は日本が経験してきたような歴史よりもはるかに複雑怪奇、混沌としていると言っていいと思います。
一世代が30年と考えると、つまりロシアはまだソビエト連邦から替わって1世代も経っていないことになります。日本人の多くが今なお「ソ連≒ロシア」と見なしてしまうのも無理はないと思います。政治的な配慮もあってかロシアに関する情報も少なければ言って人の数もまだまだ桁違いに少ない。ただ今年からビザが緩和されるので、日中間よりも容易に分かり合える気もします。少なくともロシア国民の半数以上はなかなかの親日ですから。
今のロシアでは当然ながら選挙で政治家が選ばれます。しかしながらまだまだ「民主主義」とは言い難く、与党である「統一ロシア」に有利な選挙法になったり、不正が行われたりと、問題が多いようです。その上国民は長らく共産主義でしたからそもそも政治に関与すること、選挙をすること自体に慣れていません。それをいいことに政治家たちは色々都合よく不正を働いている人が多いようです。
そういうことでロシア市民の選挙に対する熱意は限りなく低く、7.8人いて「毎回ちゃんと選挙に行く」という人は多くても1人、せいぜい何度か行ったことがあるという程度の人が1.2人いる程度です。それ以外は関心がないか行って見意味が無いとか、そんな感じです。あくまで私の感覚ですが、これは収入の高い低いに関係なくそのようです。いい歳した大人が「行っても意味が無いから行かない」「どうせ変わらないから行かない」とかいう意見を普通に言います。しかも圧倒的大多数が。この辺りは普通の民主主義国家とは違うなと感じるところです。
最初からクリーンな政治を期待する方が無理です、行かなければ行かないことを見越して、悪徳政治屋が余計に幅を利かせます。市民の監視が緩いことをいいことに、不正を平気でする人が現れます。政治を見ようと努力しなければ正しい信念を持つ政治家も腰が引けてしまいます。何より「ロシア政府」が「ロシア市民」とイコールでなければ、ソ連時代と一体何が違うのかと言うこと。生活だけ豊かであれば政治はどうでもいい、これは国が繁栄していくに当って正しい方向性なのかどうか。ロシアの国益が「あなたたちの平和と繁栄」と合致しなくなったらどうするのか?選んでいない人を非難するよりも選ぶ努力をしなかったあなた方には問題がなかったのか。
・・・などなど、別に民主主義の旗手でも何でもない、一民主主義国家の私が熱弁を振るって、民主主義の何たるかを切々と説きましたが、一体全体どこまで分かっていただけたものか。祖国愛、愛国心は普通にはあるようです。今や情報流入経路にはソ連時代ほどにはフィルターがかかっているわけでもなく。単に政治に無知で無関心な国民からの世界情勢が見えるだけです。
今やロシア国民は自由に海外には行けますが、まだまだ国際的と言うにはほど遠い。あるお金持ちの家にお邪魔したのですが、色々な国に行ってきたことを自慢していました。私はロシアに来るのが一番大変、何故ならビザを取るのが面倒だから、仕事と留学以外でビザを取ったことがないと言うとさすがに黙りました(笑) ま、日本人でも若い世代は海外にも行かずネットから世界を見て知ったつもりでいる人が多い今日この頃ではありますが。
日本人はまだまだロシアに対して無知なことが多い(もったいないことですが)。ロシア人も旧西側陣営や日本では当たり前の民主主義の原則や精神を知らない(日本についてはなかなか良く知っています)。世界の立ち位置については日本人も怪しいですがロシア人の方が理解してなさそうです。そういう互いの至らなさを思うとき、互いをもっと知り合うということがいかほど重要か、分かろうもの。ロシアは中韓と同じく日本に接した国です。一旦信を得られれば、中韓などよりもずっと信頼できる国です。そして周辺国では数少ない親日国です。ロシアの政治環境はよろしくありませんが、ここはひとつ日本の力で距離を縮めて欲しいところです。日本はロシアにそれができそうな数少ない国であると私は思います。