不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

ギリシャ見聞録 3

私が訪れたギリシャ第2の都市テッサロニキはアテネとはオリュンポス山と湾を挟んで北側にあります。アテネには行ったことはありませんが、アテネほど観光地ではないのでその分犯罪も少なく、割と普通の街のようです。人口は周辺を合わせても80万人程度、ギリシャの人口自体が日本の1/10程度ですから日本で言えばさしずめ800万人都市みたいな感じでしょうか。

テッサロニキの町並み



とは言え街の歴史は古く、街が創建されたのは紀元前315年、マケドニア王であったカッサンドロスによって作られたそうです。日本と較べても圧倒的な古さですね。

マケドニア王カッサンドロス

街自体、遺跡の上に作られているので下に掘れば掘るほど古い遺跡が出てきます。彼らが言うにはローマ神殿の下には大抵ギリシャの神殿があるそうです。なので待ちのあちこちで発掘されているのはローマ遺跡という事になります。ローマ遺跡の多くにはその跡にあったであろうギリシャ建造物の石材が流用されていて、その石材は見るとすぐ分かります。美しい大理石で多くは家紋なのか何なのか模様が彫られていたりします。

旧城都だった部分は現在のテッサロニキの東側、丘の上に城があり、城壁はずっと湾にまで伸びていたようです。現在も城跡は整備されていて市民の憩いの場になっています。夜間もライトアップされていて周囲にはレストランが多くあります。

日中は中に入ることができる

夜間でも人出は多い、それ程危険は感じられない




市内の遺跡は当然ながら現在の街の建物が建っている地表より低いので、数メートル低くなっていますが、数メートル低いところに建っている、現在でも使われている教会もあり、その歴史を想うと驚きを隠せません。

遺跡は幾つもありますが、有名なのはガレリウスの凱旋門。1700年ぐらい前にローマ皇帝ガレリウス帝が建設しました。今残っているのは一つですが、当時はこれがかまぼこのように環状に並んでいて上下で人が歩けるようになっていたとか。規模が大きすぎてあまりイメージできません。残った凱旋門には白い大理石が使われていて、緻密な彫刻が施されています。1700年前というと日本は弥生時代からやっと古墳時代になった辺りです。その頃ローマ支配地域では超巨大な建造物群が壮麗に立ち並んでいました。

精緻な彫刻が施されたガレリウスの凱旋門

同じぐらい有名なのがガレリウスのロトンダ。ロトンダとは円筒形建築物のことです。これは凱旋門の北側に建てられていて、凱旋門が南半分を環状に建築されていました。ロトンダはガレリウス帝の霊廟として使われる予定でしたが何故か使われず、後世教会に使われたり、オスマン帝国が侵略してきたときはモスクとして使われたりと、珍しい歴史の変遷をしています。現在は国が管理していますが、正教会が借りて式典を行ったり、イベントが行われたりしています。高さは30mで直径は約25mとかなり巨大ですが、これも1700年間、崩壊せずに(ギリシャには地震があります)存続していることに畏怖の念を持ちます。

ロトンダ、遠目にも巨大なのが分かりますが、これが1700年も前に作られたのだと思うと畏怖の念に駆られます

今回は中には入りませんでしたが、中にはイエス・キリスト像が見えました

その他に街中にはガレリウス帝の屋敷跡があったりしますが、こちらも既に発掘が終わっていて、有料で入場が可能で、その他イベントでも利用されているという、ギリシャならではのサービスです。

ガレリウスの宮殿跡、この時はコンサートの準備をしていた



海辺にはこれまた遺跡でもあるホワイトタワーがあります。これは丘の上から伸びた城壁の海辺の終着点だそうです。こちらはきれいに整備されていて上まで登ることが出来、中は資料館などになっています。前回行きましたが大変見晴らしが良いところで人気スポットです。

ホワイトタワー、こちらはきれいに整備されている

国の主な宗教は正教会、ロシアと同じ様式です。私にはなじみがあります。
信心深いかどうかは微妙ですが、教会は多くあり大切にされています。
一方で日本人であれば興味を引くであろうキリスト教以前の宗教、いわゆるギリシャ神話十二神は今でも信仰されているのかと尋ねたところ、大変残念ながら現在ではあくまで歴史の一つという認識のようです。日本人としては神道と仏教が共生しているように、ギリシャでも古代信仰とキリスト教が共生していて欲しいと願ってしまうところです。

ホテル近くのアギオス・ディミトリオス聖堂の中

湾を挟んでオリュンポス山が見えます。少々曇っている程度の天気でも見えます。
現在ではオリンポス山という表記が一般的ですが、私は古代ギリシャ語の発音に近いオリュンポス山という発音が好きなのでこちらを使っています。標高は2917mです。欧州にはオリュンポス山より高い山は幾つもありますが、特徴的なのは海上から見える山としてはもっとも海に近いため、大変高く見えます。つまり海抜0mから見えるわけですから結構高く見えるのです。例えばアルプス山脈なども高いですが、眺める場所も高いので実はそれ程高く見えないことが多い。
歴史的バックグラウンドを知っているからなのかどうか、やはり普通の山とは明らかに違う雰囲気があります。いつ見ても「確かに何かいる」山です。一種ゾクッとくるような感覚に襲われることしばしば。テッサロニケからだと車で1時間半程度なので次回近くまで行ってみたいところです。

湾から見えるオリュンポス山、いつ見ても神々しい

ちなみにギリシャではよく"Hella"とか"Hellas"という単語を見ます。ヘレニズム文化のヘレですが、これ、古代ギリシャの自称で現在でもよくギリシャ人は好んで使っている自称です。優雅ですよね。日本人であればさしずめ「大和」です。私は日頃から英語表記をJapanからNippon、あるいやYamatoに変えて欲しいと願ってやみませんが、日本人ももっと古代の雅号を使ってみるべきだと思います。

 

令和四年長月三十日
不動庵 碧洲齋