不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

ロシア軍の敗走

現代戦は基本的に数学です。或いは経済と言っても良い。
1人の天才指揮官や優秀な1部隊、少数の一頭抜きん出た高性能兵器などで戦局はまず挽回しません。
天才指揮官の采配が冴えたのはせいぜい19世紀まででした。
ナチスドイツなどは当時1世代抜きん出ていたジェット機まで投入しながらやはり勝てなかった。
そもそも勝てる国はリスクのあるキワモノ兵器など作らずに、凡庸な兵器を死ぬほどたくさん作っていれば勝てることを知っています。
第1次世界大戦以降は例え凡庸な指揮官であっても十分な兵力と兵站、それなりの情報があれば誰でも勝てるのが現代戦です。
大義とか精神力とか愛国心とかいうのはあまり関係無いと思っていましたが・・・

今回のロシア軍のウクライナ侵攻は大半の人が予想できませんでした。
私もまさか本当にやるとは思わなかった。アメリカ国防総省以外はほぼハズレだったようです。
私もアメリカはいつものように焚きつけた情報を拡散させているのだろうと言うぐらいにしか思いませんでしたが、そのアメリカが一番正確な情報を持っていました。さすがアメリカです。

一方で世界第2位の精強さを誇ると言われ続けてきたロシア軍はこの戦争でボロが出てしまいました。
政治が腐敗した国では軍隊も精鋭というわけにはいかないようです。それにしてもここまでボロボロの軍隊だったとは夢にも想いませんでした。
恐らくこれは中国でも同じであろうと想像します。政治が腐敗しているのに軍隊が強いなどという事は無さそうです。
最近知りましたが中国に至っては作れるはずもない空母を適当に作ってしまい、2番艦(国産1番館)はほとんど復旧の見込みなし、建造中の3番館はアメリカでも手を焼いている新技術を採り入れたため、多分これも完成しないと思います。
ま、そういう国です。

一方でウクライナはよくやっていると大変感銘を受けます。
特に大統領。平時においては彼は人気俳優で芸能プロデューサーでした。
人気番組「国民の僕」で人気が出て、当時政治腐敗が酷かったポロシェンコ政権を打ち破って政権の座に着きました。
ロシア人の友人と話していると、この「選挙」によって「国民の意向にそぐわない大統領」が「新しい大統領」に「交替」させられたという事実を飲み込めていないことに驚きを隠せません。もちろんロシアにも選挙はありますが、我々から見るととても公正とは言い難く、中にはYouTubeにもその不正操作が面白おかしくアップされているレベルです。そしてロシア人はかなり近しいウクライナでも同じ事をしているのだろうと勝手に想像しているようです。つまりロシア国民は本物の「民主主義」がどんなものかを理解していないと言って良いでしょう。
よく言えば素朴です、その点に関しては日本人とかなりウマが合います。プロパガンダにコロッと騙される人、或いは沈黙するのももしかしたら似ているのだろうかと思ったとき、私はゾッとしますが。

平時ではやや頼りない大統領のようでしたが、戦時になると俄然変わりました。同じ時代にそんな政治家がいるのかと驚きます。これ、戦後になったらきっと映画になると思います。それでウクライナ復興の一助になればいいですね。現代におけるノンフィクションの勧善懲悪ドラマですからきっと皆熱狂します(笑) いや、監督が良ければ私も観に行きたいところです。ま、でも実際心の中では異を唱えているロシア人も多いということも盛って欲しい。

兵力において劣勢でも大統領の外交能力や行動が他国を惹き付けたように思います。
もちろん実際には米国以下、ロシア軍の実力を測るための絶好の機会と思っていたでしょうし、兵器テストも兼ねていたのかも知れませんが、見たところロシア軍というのはほとんど張り子の虎状態だったようです。また、悪いことに今回は多くのロシア兵ですら大義を感じなかった。それが現代戦争でもこんなに多く影響があるとは思いませんでした。彼らも普通の人間です、やはり悪いことだと思ったら戦いたいとは思わないでしょう。この辺り、ロシアを知らない人たちによく思いを馳せて欲しいところです。戦場でやる気になっているのは地方の貧しい人たちや傭兵だけです。まともに教育を受けてきた兵士らは多分、とてもやる気になっていたとは思いません。

ロシア軍は戦端から今まで数で押してきてしかもかなりの準備不足でした。それはそうです、アメリカ軍ですら10数万人を動かすというのは国家的大事業です。それが今や韓国よりも経済力が低いロシアがやろうというのですから無謀としか言いようがありません。そこにきて大義が有り余っているウクライナ軍と大義だけではないでしょうが、政治的理由も兼ねて周辺諸国からも続々最新兵器が供与され、驚くべき戦局逆転になりました。
正直私は東部は諦めるかと思っていましたが、こんなに簡単にロシア軍が敗走するとは思っていませんでした。ここ数日のウクライナ軍の快進撃というよりもロシア軍の敗走と言うべきでしょう。

今後どこまで領土を回復できるのか分かりません。クリミア半島も奪回できるのでしょうか。
ただその前にプーチン自身が失脚する方が早いかも知れません。せっかくロシアをここまで回復させたのに、何かを勘違いしてしまった男の末路は大変迷惑なものでした。最新のニュースではさすがにロシア国内の政治家たちも沈黙を破って抗議し始めたという事ですから多分プーチン政権もそう長くはないと思います。

早く戦争が終わって欲しいと思います。

令和四年長月十四日
不動庵 碧洲齋