不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

のぼうの城 観てきました

一応ネタバレなしということで・・・

昨日、座禅会後に単独で行って参りました。

観ることがかなうまで長かった・・・これが一言で言う感想でした。

内容を見れば分かりますが、確かにあの映像は津波をかなり連想させてしまい、被害を受けた当事者でなくとも少々ビビるかもしれません。私と周辺の観客は少しびびりました。

1年という期間を空けたのは正解だったと思います。

行田市忍城では毎年11月になると時代祭がありますが、かれこれ8年ぐらい参加しています。なので見覚えある場所が映画になるというのは何とも不思議な気がします。

初戦や水攻めの迫力はなかなかでした。

今の土木工事技術を以てしても大規模かつ壮大なスケールだと感じます。

ま、現実には水攻めの時の水はひたひたと押し寄せてくるもので、あんな風にはなだれ込んでこないようですけどね。

忍城!「おおおっ!」って感じですか。よくできていました。本当に素晴らしい出来映えでした。何とかして一部分でも公園などに復元できないですかね。埼玉県民として熱いエールを送りたいところです。

野村萬斎さん演じるのぼう様、小説では大男でしたが割と違和感がありません。ただ野村さん自身に気品がありすぎるので、もうちょっとやぼったいのぼう様でもよかった気がします。

唸らされてしまったのはのぼう様の舟上での田楽の舞い。さすが。圧巻でした。動きが凄すぎる。このくらいカンペキな動きだったら武芸も素晴らしいものでしょう。能は何度か見てますが、更に観たくなりました。

甲斐姫榮倉奈々さん、可愛らしかったです。特に黙っている時の表情がよかった。甲斐姫は実在で本当に武勇に優れていたらしかったのですが、埼玉から大阪まで行き、天下が豊臣から徳川に変わったのち、鎌倉東慶寺に入ったとされています。東慶寺はいわゆる縁切り寺として知られています。

そういえば私が敬愛して止まない正木丹波守英利もこの戦いの後に自分が守った佐間口に寺を開基しました。円覚寺派高源寺。高源寺の大本山である円覚寺は今も東慶寺の線路を挟んだ向かいに位置しています。

戦うことに何を思っていたのか分かりませんが、出家したり寺を開基したり、昔の人は現在のハイテク兵器と違って目の前、手が届くところで人を殺傷してしまう代わりに神仏に深く救いを求めていたのでしょう。血しぶきを浴びる距離で人を殺すという罪深さは今の我々には想像を絶します。そして同じぐらい、ハイテク兵器でゲーム感覚で人を殺す感覚も常軌を逸します。人々が戦いのない世を求める気持ちは今も昔も変わりありません。

正木丹波守英利、佐藤浩市さんが演じていましたがさすがというかかっこよかった。あの地金を出した黒っぽい甲冑がよかった。正木丹波は槍の名手だったということです。槍は戦場では最もスタンダードな武器でしたから、名手はたくさんいます。前田利家も槍の名手でした。この頃は多分、刀よりも使い手が多かったのではないでしょうか。佐藤さん演じる正木丹波守のシーンで一番心打たれたのは、馬上や城内でよく農民たちを見つめている場面。他のキャラと違い、のぼう様ともども本当によく農民たちを見ているシーンが多かった。

民の苦しさ、民の哀れさがよく出ていた作品のように思います。時々正木丹波守が農民たちを見つめる目つき、胸に痛みを覚えました。戦功戦果にのみ目を怒らす人間は武人などではありません。それは単なる狂人に過ぎません。真の武士、真の侍は民の苦しみを我がものとできる戦士を指すのだと、私は日頃から肝に銘じています。己の栄華に走り出したらそれは下り坂、下りきった先には地獄の釜がふたを開けています。

豊臣軍。何と言っても大谷吉継でしょう。素晴らしい義将でした。実話では既にこの頃、癩病にかかっていたはずですが(眼病とも)、スクリーンでは健常者でした。この3年前に私が好きな二人のエピソードがありました。大坂城で開かれた茶会の話しです。茶席では濃茶は回し飲みをするのですが、伝染を恐れて大谷吉継が飲んだ茶碗を手に取ろうとしない諸将の中、石田三成だけはそれを手にとって全部飲み干し、「もう一杯」と言ったそうです。別の話では膿が茶に落ち、皆飲むのをいやがったところ、三成だけは黙って飲んだとも。私はこの話を思い起こす度に義の何たるかを喚起し、襟を正しています。

三成の語りに島左近の伏線がありましたね。三成に仕えたのはその1.2年後だったかと思います。

個人的には武者たちの活躍をぐっと押さえて、足軽たちの活躍(どちらの軍も)にスポットライトを当てた辺りがとてもよかったと思います。煌びやかな武将たちの出で立ち、活躍ではなく、泥臭い、底辺にいる兵士たちの様子がとてもよく描写されていた辺りを高く評価したいと思います。

平成二十四年霜月五日

不動庵 碧洲齋