不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

人種差別で目覚めたこと 二

米国から帰国して数年、色々なことを反芻する時期でした。丁度日本語教師になる為の勉強もしていたこともあり、米国で受けた差別に自分がどう思っていたのか、どんな感情を抱いていたのか、ようやく分かった気がしました。

全くの話、留学してからアメリカには完全に失望しました。正直な話「こんな連中が世界警察気取りでいるのか」と「こんな連中に日本は負けたのか」という感じで腰が抜けそうでした。最近は分かりませんが、少なくとも20世紀まで日本人は海外に長く行っているでもなければそれ程深く、祖国について考えることはなかったような気がします。21世紀になり、ネットが普及して外国人観光客が一千万人単位で増えてきてから、日本人が日本について改めて考えさせられたのではないでしょうか。それまで日本人は日本という国は例えで言うならありがたいものかも知れないが、水や空気のように無味無臭でほぼタダのような存在と思っていた人は少なくないように思います。
あくまで私の場合ですが、留学中に抱いていた気持ちが何であったかと内省すると、それは「祖国愛」です。「愛国心」とどう違うのか分かりませんが、私の場合は「祖国愛」です。これは私の造語ではなくて、立花隆さんだったか誰だったかの言葉です。

古い国についての定義です。国の定義は国民、領土、そして主権ですが、その主権たる者は何かというと一般には政府です。しかしながら「政府」というのは通常国民から選ばれた政治家に因って構成されており、その意味での定義ができたのは古くて1600年頃だとされていますから、当然ながらそれより古い同義語では王朝になります。古い時代には多くの世界に王朝がありました。現在でもさすがに専制君主制を敷いている国はほぼないものの(リヒテンシュタイン公国はそれに近いらしい)、立憲君主制がある国は現在でも10を越えます。中東を除くアジアでもカンボジアブータン、タイそして我が国日本などがあります。

世界で二番目に古い国はデンマーク王国と言われています。デンマーク王国の始祖はゴーム老王で、彼はデンマーク王室のみならずノルウェー王家、スペイン王家、イギリス王家の先祖でもあるというのですから驚きます。このゴーム老王が在位していたのは936年頃から958年頃だと言われていますからざっくり今から1100年前になります。デンマーク王室は1100年前から継続している計算になります。ゴーム老王から現在のマルグレーテ2世女王陛下まで、数えたら45人いました。ただし王朝は何度か変わっていますので、血統としては繋がっていないのもありそうです。それでも一応、世界で2番目に古い王室と言われています。

日本の話です。現在の今上天皇陛下は126代目とされています。初代天皇神武天皇で、伝説というか神話では紀元前660年正月に畝傍山の前で戴冠式を行って初代天皇になったそうです。そしてその日が日本ができたということになってますから、現在の王朝イコール日本の長さになります。そしてこちらは血統が続いています。デンマークのゴーム老王の時代は日本では平安時代の半ばに過ぎません。天皇は61代朱雀天皇の治世に当たります。そう考えると日本の皇室がどれだけ古いのかよく分かります。実際に存在したかどうか、考古学的に微妙な初代から10代ぐらいを差し引いてもやはり日本の皇室の方がダントツに古いとされています。

多少の誤解を恐れずに言えば、もちろん主権在民憲法で保障されてはいるものの、日本人の精神としては皇室こそが日本そのものであると感じているのではないでしょうか。伝説神話の時代からこの島と共にある皇室が、国の柱たる存在であることを否定する人は少ないと思います。私は別段皇室礼賛をしているのではなく、有史以前からこの国に君臨している一族が、日本の中心であることは自然だと言いたいだけです。

日本はただ古いだけの国ではありません。現在において先進国、経済大国の一つとして世界的に重要な地位を占めています。そういう国の生まれの自分が不当な人種差別を受けているという事実に苛立ちを感じたのかも知れません。むろんどの人種であれ差別を受けたら不愉快ですが、普段日本人があまり意識しない「国を想う気持ち」が興ったのかも知れません。そういう人は少なくないと思います。

恥ずかしながら留学前までは私はどちらかというとリベラルな方でした。幸運にも武芸を学び歴史は好きでしたが、畏れ多いことながら高校時代は皇室など税金の無駄遣いなのでなくしてしまえば良いとさえ思っていました。今でも時折、そういう意見を見ますが、実際に海外で数年過ごしてみて分かったのは日本という土地と皇室は不可分であるということです。日本人自身が欧米や中国韓国と違ってあまり海外移民をしないのはよく知られていますが、それを考慮すると日本という土地、日本民族、皇室は不可分の関係なのかも知れません。だから皇室を無くして「日本共和国」とかいうものに変わったら、たぶん、世界からの日本に対する畏敬の念が相当失せてしまうと思います。そんな気がします。逆に今、経済状態がこれから更に悪くなっていっても、文化的な側面だけでかなりの敬意を持たれ続けていくようにも思います。私の想像が多分に入っていますが。

また長くなってしまいました。


令和参年水無月三日
武神館 不動庵道場
不動庵 碧洲齋

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シカゴに行ったときの写真。シカゴには2回行きました。