不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

父の自転車

我が家には自転車が4台あります。

1台は妻が使っている、子供を乗せるタイプ。恐るべき事にかれこれ12年ぐらい乗っています。こういうタイプの自転車は海外では使われていません。つまりこの手の自転車は純国産がほとんどです。私や息子のスポーツサイクルが2.3年で錆が多発していますが、妻のは私や息子の自転車と比べてもそれほど引けを取らない外観です。それを考えると国産はさすがというのか。

1台は車を廃棄してから私が使っているクロスサイクルです。あさひ自転車のブランド品ですが、安い割にはよく走ります。中国製ですが無論ギアなどの重要な部分はシマノ製。全体の完成度が高いとは言いませんが、なかなかの長距離もそつなく走っています。

1台は息子のスポーツサイクル。ただし中学校に入ってからは身長が伸び、だいぶ小さくなってきたので近日中に廃棄処分になります。2年少々乗ったでしょうか。息子はこれでかなり長距離を友人らと走ったようです。最近ではだいぶ小さくなってきたので、私の自転車をよく使っています。

最後の1台はしばらく放置されていたオレンジ色の自転車です。これは生前父が仕事で使っていたものです。映画の東映を定年退職した後、健康や暇つぶしを兼ねて、ヤマト運輸メール便の配達を7.8年続けていましたが、多分その仕事を始めて数年後に買ったものだと記憶しています。普通のママチャリで、別段特徴も無いのですが、なかなか丈夫な造りだなと思っていたのと、父が使っていたということで、乗るわけでもなかったのに廃棄せずにいました。息子が私の自転車を多用するに及んで、再度使うようになりました。

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土曜日に出掛けた折、この父が使っていた自転車の空気が抜けていたので、ホームセンターで空気を入れたもらったのですが、その時、老齢の店員さんが言いました。

「珍しい自転車に乗っていますね。ブリジストンの国産でアルミ製なんですよ、それ。あまり乗っている人はいないんですよ。タイヤもブリジストンのイイヤツを使っています。」

達人になると、自分の分野以外のものを見ても、一級品かどうか分かるそうですが、毎日車庫に放置されていたこの自転車がよいものであることは分かりませんでした。自分の観察力も大したことありませんな。

その言葉を聞いてなかなか感銘を受けたので、古くなったタイヤを交換した場合の時間と費用などを確認しました。

結局、月曜日にタイヤ内外を交換しました。ライトなども古くなっているので変えねばなりませんが、そのうち息子に居間の自転車を譲ったらこの自転車を使おうと思います。ギアが付いていないので遠くには行けませんが、どうせ年末には車かバイクを買う予定なのでこの自転車でも十分でしょう。

この自転車に乗りながら、父がどんなことを考えていたのかよく想うことがあります。大抵は取り留めもないことですが。やはり先に他界してしまった連れ合いのことと、あまりぱっとしない愚息2名について、色々思うところがあったのではないかと思います。

ヤマト運輸でアルバイトをしていたということで、家に来るヤマト運輸のドライバーさんも良く覚えていて、少し前までは配達したついでにその父が乗っていた、車庫の片隅にある自転車を見ると、よく父のことを話してくれました。私的には最も理想に近い紳士像、でしょうか。それも死んでから気付くのですから、やはり3.4流だと痛切に感じます。

息子とはよく父の話をします。息子はかすかにしか覚えていませんが、まあそれでもいいでしょう。

平成二十八年文月十九日

不動庵 碧洲齋