不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

自分を殺す 自分を消す

栗田貫一さんと宮川彬良氏。

栗田さんは言わずと知れたルパン三世を担当する声優です。初代の声優山田康雄さんが1995年に急逝してから急遽ルパン三世を担当しました。もうそんなになるんですね。

栗田さんは生前から山田さんとは親交があったそうです。また、物まねが似ていたことから山田さんに何かあったときはルパンを頼まれたとか何とか。また、今に至っても山田さんのご子息とは良く酒を飲む仲だそうです。

山田さんが亡くなって栗田さんが代わってから色々言われました。やはりルパンは山田さんじゃないとダメだ、とかなんとか。そんな事は栗田さん本人が一番分かっていたはずです。エピソードでは逃げ出したいぐらいだったとか。しかしそれでも彼は踏みとどまりました。

そして凄いのは彼のルパン三世に対する打ち込み方。彼は「ルパン三世を演じている山田康雄さんのまねをしているだけ。」と言い続けています。ルパン三世のアフレコ中もアフレコをしている山田さんの幻影が見えたくらいだったとか。栗田さん自身、決して自分を出しません。あくまでルパンを演じている山田の物まねに徹しています。自分が思い描いているルパンなどないかのように、それは徹底しています。山田さんが亡くなり、栗田さんが代役になってからしばらく、上記のような色々なエピソードをよく見ました。

ちなみに山田さんはものすごい役者魂の持ち主で「声優」と呼ばれるのが嫌いだったそうで、仕事場ではミスをするととんでもなく怖かったそうです。なお後輩にはあの神谷明さんがいますが、彼をして「山田さんは本当に怖かった」そうです。

宮川彬良氏のお父さんは「宇宙戦艦ヤマト」の音楽担当だった宮川泰氏です。そして息子である宮川彬良氏は今、「宇宙戦艦ヤマト2199」の音楽を担当しています。

アニメ界と言わず、芸能界でも30年以上も経ってから、息子が父と同じ作品のリメイク作品を担当することは珍しいと思います。「宇宙戦艦ヤマト2199」は素晴らしい作品に仕上がっています。近年これほど感動を覚えた作品はありません。

初めて見たのが5歳のとき。いつも最後に「人類滅亡まであと○○日」というのがいつも心に重く残っていました。今回のリメイク版は恐ろしいくらい精緻にできていて、キャラクターの人物像も非常に細かい。敵ガミラスにしてもちょっと憎めないほどの仕上がり。普通のリメイク作品と決定的に違うのは、単にキャラやメカのデザインを可能な限り旧作品と同じにしてあるだけでなく、効果音に至るまで一致させているところ。

また、音楽も感心するぐらい変えずにそのままです。そのままでいながらとても新しい。故に作品は見違えるほど真新しいのに幼少の頃から小学生の頃まで見ていたヤマトそのまま。この凄く不思議な世界に引き込まれます。

父の創ったヤマトの音楽から自分のテイストに変えず、これまた徹底してオリジナルを守っています。ここで自我を出したらきっと、「宇宙戦艦ヤマト2199」の魅力は半減したかも知れません。宮川彬良氏は徹底して、父の持ち味を引き出そうとしていることが分かります。

自我を出す、自分を出す。もちろんこれはこれでとても大切なことですが、上記の二人の生き方を見ていて、徹底して自我を消す、殺すことによって素晴らしい作品に仕上げている事実を見たとき、彼らの生き方にとても共感を覚えます。特にこの歳になると、自分色ではなく無色透明であることにこそ、人生の奥義があるように思うのです。

平成二十五年如月十一日

不動庵 碧洲齋