不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

恐るべし、藤沢映画作品

時代劇には決まって時代考証があります。

とはいえ、近代に生きる私たちには普通、時代劇といえば明治時代以前を指します。しかしながら欧米化が進んだ時分、本当の江戸時代の生活というのはよく知りません。時代劇の映画やテレビでも程度に差こそあれ、そんなにリアルに描かれることはまずないでしょう。

多少、歴史や侍、戦国時代が好きな人たちからすると「おいおい」というシーンをよく見かけることもありますが、例えばNHK大河ドラマなどは比較的平均水準を上回るものが多いと言われていますし、池波正太郎氏の「剣客商売」や「鬼平犯科帳」のようにかなり優れた時代考証をした作品もあります。

が、それらの作品をしても、いわゆる「藤沢周平」作品には遠く及びません(時代考証という意味で)。今まで映画で7作品ありますが、いずれも恐るべきリアルさで当時の生活が描かれています。多少、演出故に違うところもなきにしもあらずですが、極めてまれです。例えばもの凄い細かいところでは和室での作法。私もあまり詳しくはありませんが、手を付くときに畳の縁に付けてはいけないとか、歩くときは縁を踏んではいけないとか、斜めに歩いたり、丸く歩き回ったりしてはいけないことは知っています。(ちょっと驚いたのは、「花のあと」である侍が藩から重要な手紙を託され、拝受しつつ後ろ向きで下がったときでさえ、畳の縁を踏んでいませんでした)また、ふすまの開け閉めなども、最近、妻が茶道を始めたのでじっくりと見る機会があります。「藤沢周平」作品ではこれらをほぼ完璧に守っています。武家の玄関の作法でも、表玄関と脇口(正式名称は忘れました)を身分ごとにちゃんと使い分けています。しかも照明も暗い。室内の行灯には多分本物のろうそくを使っているのだと思います(もちろん抑えた照明器具も使っているにしても)その他の生活習慣、家事炊飯に至るまで、ほとんど完璧に近い時代考証のような気がします。完璧は言い過ぎかも知れませんが、「藤沢周平」作品以上に優れた時代考証がなされた作品はないと思います。

昨日観に行った「武士の家計簿」あれはとてもおもしろいものでしたが、それでも時代考証の精緻さは「藤沢周平」作品には到底敵いませんでした。

何かに書かれていたのですが、「藤沢周平」作品において、現代的に美的感覚に合わせるため、唯一やむなく譲歩した習慣は「お歯黒」だけだったそうです。「お歯黒」は大まかに言うと既婚の女性がする習慣でした。私などは目を皿のようにして観ていても、それ以外、おかしいところはほとんど見あたりませんでした。

ストーリーなどは色々好みがあるでしょうが、本物の江戸時代を知るにはとても良い作品だと思います。

SD110102 碧洲齋