不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

精進する

昨夜の稽古は久し振りの大人数で20人近くはいたでしょうか。

フィンランド、チリ、ドイツ、アメリカからでしたが、なかでもチリは10人近くいました。

飛行機で30時間かけて来日しました。

チリは南米でもまずまずの優等生で、経済的にも政治的にもなかなか安定しているのですがそれでも日本にやってきて稽古をするというのはなかなか大変なことです。彼らの志たるや大変天晴れなものだと感心せずにはいられません。週末にはアルゼンチンから武友が来ますが、アルゼンチンなどはまさに地球の真裏です。本当に彼らの武芸に対する熱意には心打たれるものがあります。

昨日は稽古が始まる前にササっと高段者である印のオレンジ色のワッペンを付けたフィンランド人がやってきて「一緒に稽古していただけますか・サー」ともの凄く丁寧に言われました。私のことは知らないはずですが、やってきたときからずっと観察していたのかも知れません。そういう観察眼のある人は一緒に稽古をしていて楽しいものです。私の武歴は当流のフィンランド道場開設と同じ長さなのだそうです。恐縮です。

高段者には厚かましくアドバイスはしない方ですが、相手が「何か悪いところがあったら遠慮なくアドバイスしてください」という言葉があったので遠慮なく幾つか。概して北欧人たちの武芸センスはなかなかで、感性は日本人に近いものがあると言えます。

次の方もササッとやってきてお願いされました。数日前に正式に道場を開ける段位を拝受したばかりのチリ人でした。そういう人には割に集中して教えることが多い。息遣い、足運び、気付かれない体の動かし方、目附、加減、拍取り、崩しなどなど。それをほとんど息つく間もなく繰り返しますが相手はそのうち汗だくになってきます。私の方はほとんど汗もかきませんし息もしているのかどうか分からないぐらいに静かで、受身も多分ほとんど静かなまま。受けとして消えることで、自分自身の悪い部分を自分で発見できるようになります。最近はなるべく言葉に頼らない教え方を心掛けています。

最後は無段者のチリ人。稽古前にちょっと話したときに、私の英語を他の同門たちに翻訳していたので稽古しようと思いました。技量はまだまだですが、一生懸命にひたむきなので、こちらも熱心に指南致しました。

稽古後、フィンランド人同門の嬉しそうな表情と2番目に稽古をした先生の段位を拝受したチリ人の深刻そうな横顔が忘れられません。武芸の深遠さ、我が身の非才さを痛いほどに認識した彼は、きっとこれから奢ることなく精進して行くと確信しました。

私とて非才な身を擦り切らせて切磋琢磨している体です。本来人様に何をか教えられるほど達観してませんし芸達者でもありません。同門諸先輩方には優れた方が大勢います。

上記のような来日する同門を見る度、指南を頼まれる度、先生と呼ばれる度、我にその資格ありやといつも心臓を何かで鷲掴みにされる想いを持っています。ただ彼らの想いに少しでも応えてあげたいと無心になって応じるだけです。

平成二十九年皐月十九日

不動庵 碧洲齋