不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

樋入り木刀に寄せて

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最近、息子が本格的に体力作りのためのトレーニングをしたいということで、わざわざメニューまで作って始めたのですが、それに当って本人の希望もあり木刀の素振りをメニューに加えました。強さに憧れ出す年齢でしょうが、まだ本人は武道をしたいとか当流に入門したいとかいうほどではなさそうです。

私が所持する木刀のほぼ全部は1本ずつ作られた準オーダーメイド品で、恐らく製造された本数はかなり限られているものばかりです。今は他界してしまいましたが、筑波山に在住していた木刀師に作って頂いたものです。その方は知り合った頃にはかれこれ30年以上も木刀を作っていて、鹿島香取両神社にも木刀を納めていた、知る人ぞ知る名人でした。

寒い雪の日、1月2日だったでしょうか、7尺棒を求めて店を訪れてから20年近く懇意にしていましたが、数年前に他界してしまい、人生で久し振りに目の前が真っ暗になったものです。10日ぐらいは精神的に立ち直れませんでした。今思い出しも泣けてきます。

さて、息子が振る木刀を決めようと、倉庫から私の木刀数本持ってきたのですが、そのうちの1本を見てぎょっとしました。

私が持つ木刀は基本、ひとつとして同じ木刀はないはずなのですが・・・どういう訳か同じほぼ木刀が出現・・・一瞬凍り付きました。

現在私が愛用している木刀は2本。ひとつは自然に湾曲した白樫から切り出された、日本刀と全く同じ湾曲を持った木刀と、樋入りの木刀です。私の樋入りの木刀はその木刀師が試作で数本だけ作ったもので、世にほとんど出回っていません。私も1本しか買った覚えがないもの。大変バランスが良く手になじんでいたので以後、先が割れても直して使っていました。

その木刀師が作った試作品の樋入り木刀ですが、樋の断面が四角になっています。その後作られた量産型は半円です。これは少数ながら量産されて売られていました。私は試作品と量産型と両方持っていたのですが、どういう訳か量産型の樋入り木刀が霧散して、買った覚えのない2本目の試作品樋入り木刀が突如出現しました。僅かに打ち合ったような跡がありますが、写真の通りほぼ新品。汚れている方が私の木刀です。間違いなければ同じ時期のものです。同門兄弟弟子のを間違って持って帰ってきてしまったのかと思いきや、柄にはこれまた驚くべき事に他の木刀同様に私の名前が彫ってあります。全く以てミステリーです。

量産型樋入り木刀が消失してもう1本の試作品樋入り木刀が出現したこの事実。しかも息子が本格的にトレーニングをしようと思い立ったその日です。物置の傘立てに突っ込んである木刀の数などタカが知れています。今まで何度もモノは確認してきましたが2本も買った記憶もそれを見た記憶もありません。そもそも試作品なので2本あること自体がありえません。しかもその試作品が作られたのは私が木刀師と知り合った20年以上前です。私が知る限りでは試作品はその20年以上前に作られた数本だけです。しかし見つかった2本目はつい最近作られたかのようにまっさらです。

息子はその木刀師とも幼い頃に何度か会っています。またその試作品樋入り木刀を大変気に入ったようです。

私は奇蹟とかは信じない方ですが、そういうことはあるのでしょうか?それを発見した日は?が果てしなく続いて寝付けませんでした。息子にとって吉兆であると信じて。

平成二十七年臘月二十九日

不動庵 碧洲齋