土曜日は東京禅センター主催の「科学と仏教の接点」に参加しました。
今回でもう11回目になります。
仏教と科学というと、全く正反対なもののもように思いますが、なかなか接点も多く。
今回スピーチされる科学者は千葉工業大学惑星探査研究センター所長の松井孝典教授。これは息子も興味を持つだろうと、一緒に行きました。
もちろん10歳の子供なんて他にいません。最初は単語が難しくて悔し涙を流しながら聞いていましたが、少しでも理解できてくると熱心にメモを取り始めました。この執念には感服しました。(実際、大人が聞いていても難しかった部分がありました)
地球はできてから大体46億年ぐらいと言われているのですが、生命の根源であるタンパク質が自然にできるにはちょっと短いのだそうです。タンパク質が約1000種類あって、その中のアミノ酸が約20種類。これが地球環境に適合した組み合わせが自然に出てくるのに46億年ではとても短すぎるのだそうです。宇宙の年齢と同じ、130億年とかそのくらいは必要なのだとか。
そもそも地球上で生物が進化したというなら、ある種のハエ(だったかな?)は地球上では必要のない、放射能に強い性質を持っていたり、明るいのに赤外線でモノをみる昆虫がいたりと、ダーウィンの進化論では説明が付かない生物がいる。
教授が世界でまだたった2例しかない、おもしろい現象を話してくれました。
「ケーララの赤い雨」と呼ばれる現象です。詳細は以下のwikipediaをご覧下さい。
教授が話してくれたことはこの記述よりも進んだもので、この赤いものは何かの生物細胞で、ここのも掲載されているシェフィールド大学のチャンドラ・ウィクラマシンハ教授とともにこれが何なのか解析しているそうですが、まもなくその細胞のDNAを解析できるのだとか。海外では細胞を磨り潰してDNA全部を調べることしかできないが、日本では特定部位のDNAを解析する装置があるとか。日本ってやっぱり凄いですね。
不思議なのはこの細胞壁には放射能が付着していたこと。地球上ではもちろん、放射能は生物にとって大敵ですから、付着していることなどあまり考えられない。よってこれは宇宙から降ってきたものではないかと仮説を立てたそうです。いわゆるパンスペルミア説ですね。これもwikiに載っています。
SFでは良く出てくる仮説ですが、土曜日は笑えませんでした。
そうすると我々人類はどこから来てどこに行くのか、真剣に考えざるを得ません。
宇宙に行くのではなく、もといた場所に帰ろうとしているのではないか。
宇宙の意志なのか、異星人の実験なのか、この大宇宙には生物の種が多く撒かれているのであれば、異星人の出会いもあり得る話しです。
それと松井教授が提唱したおもしろい理論が「おばあさん理論」というもの。おばあさんとは要するにもう個体を生み出す能力を持たなくなったメスの個体のことですが、驚いたことに我々人類以外のほ乳類では「おばあさん」に相当する役目の個体はないそうです。つまり生殖能力がなくなったメスはすぐに死んでしまうのだとか。つまり、人類が他のほ乳類(他の霊長類とも)決定的に違うのはこの「おばあさん」がいるということ。「おばあさん」は安全に出産させ、個体を育成するための知恵と経験を多く保持しています。つまり当座の能力ではなく、その後数年に亘る知識や経験を重視したことが、他の霊長類を凌いで、人口増加に成功させた原因ではないかという理論です。これはなかなかおもしろいと思いました。
小説「類人猿ターザン」というのがあります。「ターザン」というとハリウッド映画に出てくるような陽気なマッチョという感じがしますが、ターザンはイギリス貴族のご子息で、アフリカ沿岸で遭難した折、両親が類人猿に殺されたところ、その類人猿にも子を亡くした母猿に拾われて育てられたという話しです。アホ陽気な若者ではなく、どうして自分は他の猿と違うのか、と陰々鬱々と悩み、他の猿にはない器用さと知能、記憶力を駆使して(ちなみに人間社会にもいなかったのに独力で読み書きも覚える天才です)類人猿のボスになります。シリーズではターザンは英語を初めフランス語やアラビア語など、数々の語学を習得していきますが、オリジナルのターザンは血統も能力も文字通り我々のような凡人とは訳が違います。
さて、その中でのこと、群れがどこかに移動するためにターザンが食料や飲み物を持って歩き始めると母親が笑います「あんんたはなんでそんな重くて余計なものを持って歩くんだい。ばかだねぇ」と言いました。もちろん群れは道中水がなくて水源を探したり、食べ物を得るために苦労しますが、そういうときはターザンを褒めます。つまり、人間にはまだ起きていない時間の概念があり、他の動物にはそれがないという事。「おばあさん理論」でも、これから起るかも知れないことに対する知識の集大成を大事に扱うという、知的生命体の萌芽を持ち始めたという事です。
それから人口が増えてアフリカから出て世界に広まりました。人口増加は狩猟生活をしていた人間にとっては深刻です。取れるものが取れなくなってきてしまいます。故に普通なら数十万年とかかけて生物的に進化するところを、ホモサピエンスは対応していない体に例えば毛皮を纏ったり、本来居住に適さない場所に無理をして移住することによって、その知能が更に発達してきました。
さらに1万年頃からは農耕が始まりました。それによって天文学や地学的な知識も必要となり、人間社会としての団結も強まり、言語が更に発達しました。
一方、人間に最も近かったネアンデルタール人ですら、「おばあさん」がいなかったばかりにその人口増加は他の動物と変わらず、結局死滅してしまいました。
非常におもしろい生物論でしたが、まさか惑星探査を主にする研究所の所長さんからこういう話が聞けるとは思いませんでした。
平成二十五年神無月七日
不動庵 碧洲齋