不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

太公望呂尚 のこと

私は中国史が好きなのですが、その中で比較的ランクが高いのがこの「太公望呂尚」です。

紀元前11世紀頃の人物で、周王朝創立の大功労者でもあります。

魚釣りの折に周王朝始祖文王と知り合ったことから釣り人を「太公望」と言われているあれです。

ちなみに中国では「下手の横好き」という意味なのだそうです。

兵法六韜三略を駆使したとか、封じられた斉の国では何でも合理的に政務をこなしていたとかいう伝説がありますが、中でも拍手喝采をしたくなるようなエピソードが「覆水盆に返らず」です。

呂尚は若い頃、うだつの上がらない仕事ばかりして貧しく、それでもヒマがあれば本を読んだりしていたため妻に見限られ、妻は離縁して実家に帰ってしまいました。

後に呂尚が文王に取り立てられ世の人となったある日、呂尚の広大な屋敷にみすぼらしい老婆がやってきました。

門番が素性を尋ねると「元妻」だということで処置に困り、呂尚に報告しました。呂尚は「会おう」と言って、水を入れた盆(器)を手にしてその老婆と面会しました。

「あなたはなぜここへやってきたのですか。」

「あの当時、あなたは将来性のない男に見えました。しかし今や宰相として世に名を馳せているため、よりを戻してもらいたいと思ったのです。」

呂尚は手にしていた盆の水を庭に撒きました。

「今庭に撒いた水をこの盆に戻せますか?」

元妻の老婆は一生懸命に撒かれた水を盆に戻そうとしましたが、泥水しか掬えませんでした。

呂尚は哀れみのまなざしで言いました。

「こぼれてしまった水は元には戻せません。私とあなたの縁もそのようなものなのです。」

元妻の老婆はがっくりと肩を落として去っていきました。

文句なしに痛烈爽快なエピソードです。

カッコイイです。尊敬します。

一方でノコノコと平気でよりを戻そうとする元妻の道徳観念が今にも十分通用するあたり、中国ウン千年の歴史は結構笑えないなとも思います。

SD100118 碧洲齋