不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

自然な振る舞

私も長らく武芸者の端くれとして長年「強さ」に関するあらゆる事について考えてきましたが、その中のひとつが「自然さ」です。
個人的にはブルース・リーの目にも止まらぬ攻撃速度には未だに憧れますが、同時に重歳してくると疑念が湧くのはそれは一体何歳まで続けられるのか、です。彼が亡くなったのは彼がわずか32歳の時、あまりにも早い死でした。
故にいつも言っているのですが、彼が作った「截拳道(ジークンドー)」も未完の流派と考えています。もし彼があと50年生きていたら私は間違いなく截拳道に入門していたと思います。個人的な定義では截拳道は格闘技以上武道流派未満です(截拳道をやっている方がいたらスミマセン)
あの異常な速さは多分、50歳、60歳になったら維持するのは不可能です。いえ、不可能ではないかも知れませんが、それを維持するための練習量が幾何学的に増大してコスパが悪くなります。或いは肉体のどこかに異常をきたします。
ブルース・リーは間違いなく格闘において天才だったと思うので、きっと40歳、50歳、60歳と重歳していく内に更なる斬新な概念、技術体系、理論を開発したと固く信じています。目からウロコの全く新しい流派になったことでしょう。それだけに本当にいつも残念に思います。

話が逸れました。「自然に振る舞う」です。
人間の脳、あるいは心理というものは実は大分怠け者で、実は目を見開いて実際に見ていると思っているものでも実はそうではない場合もあるそうです。
例えば首を急に横に振ると風景が流れますが、実はそれの大半は脳が勝手に推測で作り上げた幻想で、実際には見てないのだとか。或いは自動車の運転でも時速30キロを越えた辺りから人の目がリアルに捉えられる視野はどんどん狭くなり、最終的にはほとんど正面の小さな部位だけになることは自動車教習で習ったことがあるかと思います。しかし私たちは結構な高速で走っていても横の視界など見えているように感じます。これらこそが脳が推定の元に造り出した幻想なのだそうです。
また、人の脳は異常な動き、つまり通常ではない動きにだけ注意を払うようにできています。なので異常な速さ、奇異な動きにはすぐ注意が行く半面、日常的な何でもないような動き、速さにはよほど意識しないと注意を払えません。
運動における反射神経、とっさの動きなどは脳を介さないことで知られていますが、それとて脳が造り出した幻想から逃れているのかどうか。

そこから導き出されることは、ギリギリ意識に上らない速度で、同じくギリギリ意識に上らない範囲の動作範囲で相手の意識が可能な限り上らないように技を掛けられたら、これがいわゆる「見えない技」と言えます。第三者から見れば「見えているじゃないか」となりますが、実際に技を掛けられている人からすると見えにくい動き、もしくは意識しにくい動きになるわけです。
これだと神速の攻撃は必要ありません。ただこれを体得するのはかなり長い時間が掛かると思います。

実際にそれができる人を何人か見たことがあります。達人レベルだと実際目の前で見ていても何をしたのか思い出せなかったり、思い出して同じ動きがしにくかったりします。何をしているのかよく分らないと言った方がいいかもしれません。直接眼で見ているのになかなか覚えられないというのは何とも不思議な感じでした(同じ技は滅多にやらなかったので)。多分録画した動画で見たら「なんだそんなことか」となってしまうところがおもしろいところで、本当に凄い技というのは多分、YouTubeなどには上がらないか、上がってもほとんどの人が気付かないのかも知れません。
(あくまで私の個人的見解ですが)

20代後半から30代前半まで「歩行法」の研究に打ち込みました。
いわゆる足音や気配を消して歩く方法です。
試行錯誤して結構いいところまで行きましたが、あるとき当時勤めていた都内の会社の同僚から「碧洲齋さん、背後を音もなく気配もなくすーっと通り抜けられるのが怖い」って言われました(笑)
間抜けなことです。足音や気配を消してもそれが自然でないと全く意味が無いと言うことです。
警視庁に勤めていた友人が以前、公安部の部屋に行ったときのことを話してくれました。公安の職員は皆、全く特徴のない服装、髪型、表情をしていたということでした。なるほどです。極力目に止まらない、意識に上らないようにすることが武芸に於いてもかなり有効であると思った次第です。
以後、私は意識して周囲に溶け込む動き、人のクセを観察して自分の動きに取り入れてきましたが、ここまで来ると人生の達人とかでない限り、かなり難しいと日々痛感しています(笑)

令和四年長月五日
武神館 不動庵道場
不動庵 碧洲齋

昨日行った湯島聖堂

武神館 不動庵道場
【日時】2022年1月8日土曜日、14:00-16:00
【場所】谷塚上町会館:草加市谷塚上町231-1
【アクセス】東武スカイツリー線 竹ノ塚駅西口
東武バス 竹04/竹05にて約10分、又は竹06にて約15分。
バス停「谷塚上町」降りてすぐ。
駐車場あり。
入門希望者・興味ある方はご連絡ください。