不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

平和であると言うこと

我々一般市民、特に先進国や中堅国では貧富の差こそあれ、少なくとも銃声や砲声、爆撃音などを聞くことはまずありません。(アメリカでは銃声は良く聞きますが) 留学中や当流の外国人たちと話していて絶句させられるのは、大変貧しい地域で、安全に暮らせない人が多くいたり、政情が不安定でクーデターや紛争がしょっちゅう起きている国に住んでいる人がいたこと。 留学中、中東の学生は自衛のためにショットガンを購入していました。まあ、アメリカは概して犯罪発生率は高い国ですが、学生が多く住んでいるところに銃撃など無いだろうと思いました。でも彼にとっては近くに武器がないことが不安なようでした。遊びに行った折、酒に酔った彼は弾丸が込められた状態でそのショットガンを私に向けました。恐るべき事に安全装置まで外す始末。酔った状態です。(イスラム教徒なのに何で酔っているんだよ、というのはひとまず置いて!)さすがに周囲から顰蹙を受けてすぐ止めましたが、銃を向けられるとそのくらい怖いものです。舌先が凍り付いたかのようで、止めろとも言えないほどでした。(相手は少し酔ってましたし) 彼らはそういうことが日常茶飯事の地域に生まれ育っているわけです。モノを見るとまずそれが武器として機能するかどうかと言う視点でよく見るらしく、特に日本人からは呆れ果てるような思考形態です。 先進国、中堅国でも少なからぬ数の軍人は戦場に行ったことがあります。そして第2次世界大戦後でも戦死者が出ています。アメリカなどでは戦死は数こそ少ないですが、今でもしょっちゅう中東で発生しています。大抵の国では少なからぬ軍隊を国連平和維持活動に供出して、死傷者が出ているわけです。私も同門に外国人が大変多く、軍人や警察官が多い。中東などの戦場帰りもいます。私は機会があると努めて話を聞くようにしています。 豪州には紛争地域から避難してきた避難民が多く定住しています。 私が以前、日本語を教えていた小学校ではクロアチアだったか、その辺りから逃げてきた家族がいました。あまり豊かな生活をしているようには見えませんでした。 お父さんが目の前で射殺され、お母さんと兄弟で逃げてきた女の子もいました。私のホストファミリーの娘さんと親友だったのですが、日本語の授業で使う40ドルちょっとの辞書が買えず、いつもホストの娘に借りていたので、買ってやりました。 豪州や米国のみならず、多くの国にはそういう人たちが多く在住しています。 方や日本では「戦死者」が70年以上発生していません。戦争で死んだ一般市民も然りです。 それはそれで大変ありがたいことですが、70年も戦争がないと「戦争」そのものが概念的なものになり、いびつになってきます。私も兵器などに憧れた時期はありましたし、男であればそういうこともあると思いますが、先日、行った富士総合火力演習に行った折、周囲の観客を見ていて、この人たちは戦争の意義をどこまで理解しているのか、不安に思った次第です。
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自衛隊の装備は数はともかく質としてはまずまず米軍にも準じる最高品質であることは間違いありません。それを扱っている人員もまずまず優秀だと想像します。豊かな国で徴兵制を敷いていないのにここまで人が集まることに感謝しなければなりません。昨今、中国や北朝鮮からの脅威、韓国がほとんど役に立っていない現実はある意味戦前のそれに匹敵するような状況のようにも思います。その中において自衛隊の存在は我々日本人にとって大変ありがたくも頼もしい存在です。実際に働いている自衛隊員を目の前で見せる、息子に見せたかったのはまずそれでした。
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もう一つは現代兵器の持つ破壊力の凄まじさ。私もこれだけ大量に大型火器を使用するのを見たことがありませんでした。特に初速の早い戦車砲の砲撃たるや、本当におかしくなりそうでした。演習では「撃つ側」にいますからそれほどではないでしょうけど、私は息子に「撃たれる側」にいたらどう思うのか、考えてみなさいといいました。実際、紛争地域ではこの総合火力演習で使用された砲弾数以上のものが一つの街に撃ち込まれ、その中でも人が生きているということを話しました。この体験を以て行ったことがない紛争地域で、毎日恐怖に怯えて暮らす人たちを想い、その人たちのために祈りなさいと諭しました。
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息子には自衛隊隊員たちの活躍振りと、本来軍隊の持つ冷酷さ、兵器の恐ろしさを教えたく、連れて行きましたが分かったもらえたかどうか。 今回の演習で使用された砲弾の価格は約4億円だそうです。実戦だったら1回の交戦で50億円ぐらいにはなるでしょうか。もっとかな。選りすぐりの超優秀な外交官とスパイ10-20人ぐらいに年俸1000万円ぐらい渡して、未然に戦争を防ぐことができたらどれだけ安く済ませられることか。外交努力によって、自衛隊の兵器が火を噴くのは本当に最後の切り札としてもらいたいところです。逆に言えば自衛隊が出撃する場合は本当に戦闘状態を回避できない場面となるでしょうから、自衛隊員の皆様には申し訳なく思います。
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そんなことを思って息子を連れて陸上自衛隊富士総合火力演習に行ったのでした。 平成二十八年葉月三十日 不動庵 碧洲齋