不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

エベレスト

基本私は精神論が大嫌いです。根性論も大嫌いです。

中学校の時は学校全体がそういうマインドコントロールに縛られていたかのように異常で引きました。

歴史を紐解けばレーダーや核兵器まで出てきた先の大戦で、日本は精神論を振りかざして先進国としてありうべからざる大敗をしました。

その前の日露戦争では兵器、軍制、外交、政治、経済、どれもギリギリ一杯まで詰めてやっと勝ったものを、先の大戦で全部チャラにした様相です。故に歴史マニアとしても武芸者としてもああいうあり得ない負け方はしたくないといつも肝に銘じています。

何度も言いますが、戦略、戦術はもちろんのこと、戦闘、闘争、格闘のいずれにおいても精神論が大手を振っているような場合は大抵負け戦です。

私の武芸の師匠もエンジニアです。だから根拠のない精神論は否定します。私もそれに全く同意見です。

・・・という大前提があって、それ故に根底には不屈の精神が要ると言っておきます(笑)

画像

今日、家族と共に映画を観に行きました。

タイトルは「エベレスト 神々の山嶺

妻がネパールに縁があるということで本を読んだときから二人とも気に入っていたのですが、今回映画になるのを楽しみにしていました。

良くまとまっていて素晴らしい映像でした。何と言ってもエベレストの圧倒的な映像が印象的でした。

で、そこに出てきた孤高のクライマー、羽生丈二がエベレスト登頂後、死ぬ間際に書き残したメモがあります。

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足が動かなければ手であるけ

てがうごかなければゆびでいけ

ゆびがうごかなければ

歯で雪をゆきをかみながらあるけ

はもだめなら

目であるけ

目でゆけ

目でゆくんだ

めでにらみつけながらゆけ

めでもだめだったら

それでもなんでもかんでも

どうしようもなくなったら

ほんとうにほんとうに

ほんとうのほんとうの

どうしようもなくなったら

もうほんとうに

こんかぎり あるこうとしても

だめだったら

思え

ありったけの

こころで思え

―想え。

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何度も言います。私は精神論や根性論が大嫌いですが、逆説的に故に武芸者としてこういう思いが根底になければならぬとも思っています。

人はいますし心もありますが、実際に心は見えません。だからあまりに現実から乖離した精神論は意味がありません。

科学論を突き詰めて肉体から心は完全には分からないのが真理だとするなら、その逆も然り。その人の立居姿、言動、技量は精神を踏襲した肉体によって現れていると思っていますが、精神だけ取り出したり、物質面を取り出しても大したことは分からないと思っています。精神を知性や肉体で体現化できますが、精神だけ取り出しても意味がない。もちろん、知性や肉体だけ取り上げても意味がない。禅的に言えば衆生と仏が表裏一体であるのと同じ事です。多分。

その上でこの羽生さんが残した言葉はそのギリギリのところ、人の体で言えば骨でしょうか、そんなものではないかと思います。私も道を行くものとして、このメッセージの言わんとするところは身に染みています。

映画館で観客は団塊世代が多かった。子供はうちの息子ぐらいでした。

こういうストーリーはウケないんでしょうかね。

ちょっと残念です。

平成二十八年弥生二十日

不動庵 碧洲齋