不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

地平線を目指した

ロシアの南、硝煙いまだ煙るウクライナドネツク州国境からわずか北に130キロのところに行って参りました。 ウクライナとロシアは敵味方と・・・世は騒がれてますが・・・道で行き交う車の中にはウクライナナンバーもかなり多かった。本当に敵味方として袂を分かったのであればこういう事は無いでしょうに。多くは戦災を逃れてロシアに逃げ込んできている人々ですが、その数や50万人以上とも言われています。1国の受入数としては他国のシリア難民受入数にも劣らぬ数ですが、何故かメディアはそういう事実を伝えず。ロシア南部には多くのウクライナ系住民が、ウクライナには多くのロシア系住民が比較的自由に行き来してましたが、戦火が上がってからウクライナに戻ろうという住民は見かけません。 ロシアの全部が正しいとは申しませんが、現在のウクライナ政権がどれほどの強権発動で酷いことをしているか、西側メディアは恐ろしく偏向的です。 久し振りの乗馬をしましたが、3時間を越える長い距離は留学以来久々でした。 後で距離を聞いたら30キロにも及んだとか。
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牧場で初老の従業員に出会いました。ユーラさん。大学を出たようですが、何故田舎の牧場に勤めるようになったのか。 こんな辺鄙なところに日本人が来たのは初めてのようですし、彼にとって私は初めて会った日本人のようで、大変興奮していました。 彼は私に会うなり「私は東郷平八郎元帥を歴史上もっとも尊敬している。彼以上に優れた知性と人徳を持った人を知らない。彼は歴史上大変偉大な人物だ。」と言っていました。いやいや驚きました。当のロシア人にそれを言われるとは。曰く絶望的なほどの兵力の差があっても沈着冷静にして戦い、しかも完璧な勝利をもたらせたその功績は大きいとか。私も歴史上、東郷元帥をもっとも尊敬していると言ったら喜んでいました。 愛国心についても尋ねられました。 私は「今日本で愛国心についての授業はしない。強い愛国心を持たれると貰えるものがもらえなくなったり、不都合が起きて困ってしまう国が他に幾つかあるので」と皮肉を効かせて言うと、ユーラさんは首を振って言いました。 「近代の世の中になっても忠誠を尽して明治天皇崩御の折に夫婦で殉死した人がいる。」 「・・・それは乃木将軍のことですか?・・・」 「そうだ、彼が一番、人が持つべき愛国心の何たるかを示している。彼のように雪のように真っ白な愛国心があったら、もっと世界は良くなるのに。私は今でも彼の話をすると涙が止まらない。」 本当に涙ぐんでいた(笑)これは本当に参りました。東郷提督、乃木将軍を当時敵対していたロシア人から絶賛されるとは。もっとも東郷提督も乃木将軍も当時ですら敵国だったロシアから絶賛されていたという事ですからその人品たるや、今の日本人の比ではなかったのかも知れません。
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前にロシア人に尋ねたことがあるのですが、現在が一番よくてその次は帝政ロシア、一番酷かったのがソビエト時代だそうです。もっともどの時代も断絶しているかのようなギャップなので、帝政ロシアを痛めつけても今のロシア人にはあまり関係ないのかも知れません。 アメリカも大変広い国ですが、ロシアはそれを上回る広大さです。乗馬ではほとんど地平線を目指して走ったので、尻が痛くなってからは絶望的ですらありました(笑)。それでもそんな話しを聞いた後だったので、乃木将軍よろしく、あちこち痛いのを我慢して正しい姿勢で乗馬しました。日本人として大変誇り高く思うと同時に、自ら日本の品格を損なわないよう慎みたいと思いました。
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平成二十七年長月三十日 不動庵 碧洲齋