木製武道具の修繕方法
木製武道具の修繕について紹介したいと思います。
修繕と言っても破損ではなく、自然に曲がってしまった武道具の修正方法です。
私は23歳の時から20年近くお付き合いさせて頂いた、筑波山神社参道にあった、杉山武道具製作所、杉山孝次さんから直伝されたものです。
杉山さんは関東圏内で古武道をされている比較的古い方であれば知る人ぞ知る伝説的な木刀作りの名人です。
鹿島香取で販売されている御神木刀などは生前、杉山さんが作っていました。
また、鹿島香取の古参の方々が使っている木刀などもここで作られたものも多く、それ以外の流派でも一通りの型を持っていて、実に正確な武道具を作っていました。
また、杉山さんは自分で材料を調達するので、材料購入の段階から間違いないものでした。
病のため既に他界してしまいましたが、私は足繁く通った折、幾度となく手ほどきを受けた内容をまとめ、武友の皆様と共有しようと思いました。
杉山さんと私 2006年6月
武道具を長年使用していると湿気や乾燥のために木製武道具は大抵僅かに曲がってきます。
それを修繕する方法となります。
今回は本日たまたま修理した六尺棒をメインに説明しますが、木刀についても併せて説明します。
棒の場合、まず曲がっていることを感じたら、一番確実なのは平らな床に置いて回してみること。
コロコロと転がらなければ曲がっています。
木刀の場合は持って見ても分かりますが、やはり床に置いてみて、左右どちらかで寝かせた場合、持ち上がっていたら曲がっています。
曲り方は実に様々で、下のスケッチのような感じの曲り方が多いと思います。
木刀は大抵左右に反ってしまうだけです。
左四つが一番直しにくく、右四つは直しやすい。
また、経験的にくの字型に曲がったケースはその木は修正後も修正したところから折れやすい可能性が高いので要注意です。
修理に必要な道具は三つ
1. ガスコンロ、できたらキャンプ用。
2. 曲げるための治具、今回は自宅の玄関の把手で代用。
3. 曲がっていない棒(今回は愛用の7尺棒)」
ガスコンロは五徳が付いているものが便利。
治具は何でも構いませんが、金属の場合は直接当てると棒が傷つくのでタオルなど用意。
手足だけで逸らせて直る場合もありますが、曲り方が鋭角だったり、先端の方が曲がっていたりすると手足では上手く行かないので治具は必須です。
曲がっていない棒は比較のために必要です。
木刀などの場合でもまっすぐな木刀があると良いです。
場所は木刀などの場合は家の中でも問題ありませんが、六尺棒の場合は家の外の方がよさそうです。
また、初めてで自信がない人は割り箸や手頃な細い角材で練習することをお勧めします。
今回はロウソクで割り箸を曲げてみました。
写真のように曲がります。
実際には材質について注意すべき点があります。
古い武道具ほど長い時間、火に当てる。新しい武道具はあまり長い時間火に当てると焦げます。また、抜けきっていない湿気のため過度に曲がります。
更によく使い込んでいるかどうかにも因ります。よく使い込まれて手油が付いているような武道具は結構長い間火に当てる必要がありますが、古くてもあまり使い込んでなければ新品と同じか、やや長い時間です。
また、ほとんどの武道具は白樫か赤樫で作られていますが、希にそれ以外の材木で作られている場合があります。ものにもよりますが樫よりは短い時間であることが多いと思いますが、自分でよく調べて下さい。
まず、どこが曲がっているのか目測します。平らな床等に置いて回し、どんな感じで回転するか確認します。それから曲がっていない武道具とくっつけて回してみて確認します。先端から見る場合は必ず両方の端から見ること。それで大体分かります。木刀の場合も同じですが、切っ先から見えた曲りの方がより確実です。これは木刀購入時にも使える方法で、買う場合切っ先から見て曲がっているかどうかよく分かります。手元からだと切っ先の方が細くなっていくので分かりにくいのです。
修正前と修正後
まず広い場所でコンロに火を付けて、手元か近くに曲げ用の治具があることを確認してから武道具に火を当てます。当てる場所は曲がっている部分の外側がメインで曲がっている横側も少し火を当てます。火が当ったところは収縮します。ただ当てるだけではなく、武道具を前後に動かして、火がまんべんなく曲がっている部分に当るようにします。曲がっている箇所が短ければ短く、弓状に長い場合は30-50センチぐらいなら一度に火を当てて直しますが、それ以上に長い場合は数カ所に分けて曲りを直します。一度に直すのは難しい。
武道具をゆっくりと火に当てて動かし、数往復させたところで、火を当てた部分、つまり曲がった部分の山側を治具なり足なりでゆっくりと曲がった方向とは逆に曲げます。弓状に湾曲した場合は手や足で全体的に曲げても構いませんが、くの字のような場合は例え手で曲げられそうでも治具を使って負荷をかけて下さい。しかしあまり無理すると火を当てたばかりで折れやすくなっているので簡単に折れます。特に新品の場合。無理のないようゆっくりと曲げます。これを何度か繰り返しますが、特に曲り方が複雑な場合は何度も曲がっていない棒と合わせてどの程度修正されたか確認して下さい。
今回修理したのは六尺8分径で比較的新しい武道具なので火を当てる時間は短め。
写真のキャンプ用コンロには十文字の五徳が付いているので、その上に棒を置いてただ滑らせるだけなのでとても楽でした。
普通のカセットコンロだとこれはできないかも知れません。
修正が終わったら火を止めて棒が少し焦げていたり、曲げたときに傷があったら紙やすりなどで直しましょう。
木刀の場合はほとんどが左か右に曲がるだけですが、短いだけに直すのは比較的楽です。
ただし直す場所を間違えると振っていて明らかに違和感をも感じるほどになることもありますので曲がった場所をよく見定めてから直して下さい。再度言いますが、必ず切っ先から確認して下さい。長モノの修理は多少しくじってもある程度修正は効きます。
なるべく曲がらないようにするのがよいに決まっています。
一説によると天上から紐を吊ってそれに木製武道具を結んでおくと湿気も乾燥も均等になって、曲がりにくいと言われていますが、個人的には使われている木の部位や加工されるまでの期間で変わると思っています。
かなり使い込んでいる武道具にこの処置をした場合、手油が付いた部分に火を当ててサンドペーパーをかけるとそこだけ手油が取れて新品のようになることもあります。ただしこれはかなり使い込んでいれば少しぐらいサンドペーパーをかけても変わらないこともありますし、変わってしまうこともあり、こればかりは分かりません。木刀などではそんなに気になりませんが、棒の場合は手油がまんべんなく付いている一部分だけ触覚が異なるとあまり気持ちのいいものではないかも知れませんが、曲がっているまま使うと正しい感覚が身に付かないので仕方ありません。
以上が曲がってしまった武道具の修繕方法ですが、細かい所は各自で研究してみて下さい。
平成二十七年睦月二十五日
不動庵 碧洲齋