不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

問題はここ

日本人が過去の事実を突きつけても、例えば中国や米国は「はいそうですか、分かりました訂正します」とは絶対に言わない。何故そうなのかを考えないことには変えようもないし、そのことに労力を費やすだけの価値があるのかどうか、費用対効果も考えねばならない。

対米国の場合、日本は国力において大幅に劣っていたにも拘わらず戦いを挑み、もちろん負けた。

日本人は日清日露で完勝しているために勘違いしやすいが、基本、特に近代戦争においては物量が多い方が9割方勝つ。歴史を紐解いても寡勢が多勢に勝つ例が目立つが、よく見ればやはり物量が多い方が勝つに決まっている。物量の前ではちょっとやそっとの名将の能力など大したことはないというのが近代/現代戦争である。判官贔屓は庶民の常だが、本物の戦争はそんなに甘くない。寡を以て多を打ち破るのはドラマやアニメと相場が決まっている。何度も言うが日本の近代戦争はかなり例外である。

米国が勝ったのは「正義」を標榜していたからであり、故に軍国主義国に対する民主主義の挑戦という図式を堅持している。故に戦前の日本がなるべく悪い方が都合が良く、それだけ今の日本の良さは米国が感化させたお陰だと言うことができる。

だから大東亜戦争では日本側にも十分に納得できる戦争をする理由があってはならない・・・ということ。

今の日本が世界のお手本のようであればあるほど、過去の日本が悪ければ悪いほど、お手柄は全て戦勝国のものであり、余計に過去の事実など訂正されなくなる。

日本は軍国主義ではなかったかどうかは見方次第。日本も好んで軍事費を湯水のように支出したくはなかったが、欧米列強に屈しないためにもこれは仕方がない。ましてや日本は戦前、東洋で唯一無二の欧米列強に対抗できる文明国だった。これがアジア2.3ヶ国に分散していたら日本もいくらか楽だったのだろうが。そういうことで日本がいくら「実は軍国主義ではなかった」などと声高に反論しても全然意味がない。負けた国は何を言っても基本受け入れられないのだ。

とはいえ、日本にしろドイツにしろ元々持ち合わせていた国民の教育の高さ、素養を以て戦後世界に返り咲く結果となった。今や日本は先進諸国の中では桁違いに防衛予算も少なく、日本より平和な先進国もない。過去の事実を戦勝国にいつまでも強引に認めさせる努力は費用対効果の面からあまりお得ではない。日本国民として悔しくもあるし、腹立たしいが、未来において日本の影響を更に強大にさせてからゆっくりと説いていけばよいとも思う。今はそういうことをする布石を打っておくべきだというのが私の持論だ。

昨今、一部の人を除いてちと蒙昧気味の愛国主義が蔓延している節があるが、あまりにも稚拙すぎて同調できかねること多々あり。国家の大計は100年とか300年で考えねばならない。70年前の事実を焦って強引に認めさせようとすれば、その70年間の信頼すらも失いかねない。また、ネット社会故にじかに膝を交えて語る機会を持たねばこれまた意味がない。私は中国人ともアメリカ人ともロシア人ともじっくりと軍事経済歴史について語った事がある。それなくしてギャーギャー叫べば聞く人も聞かなくなると言うもの。真の愛国心、祖国愛はそういう浅薄なものに非ず。十分心されたい。

中国に関しては友人に専門家がいるが、基本的に私は彼の意見に全く同感。現在の共産党政権が民主的になったところで基本的な日本に降りかかってきている問題の多くはあまり変わらないように思う。距離を置くという考えは正しいと感じる。中国の問題は共産党政権と漢民族で考えた方がいいが、前者には多くの政治的問題があるというなら、後者はやはり多くの慣習的、伝統的な問題があるとも言える。時事をよく読めばよく起っている問題は大抵どちらかに分類できる。これから先、中国が没落したとしても残念ながら問題の総量そのものは多分変わらないと思う。

ただし米国人にしろ中国人にしろ、個々で日本を訪れた場合、日本には彼らを十分に説得できるだけの土壌があると言うこと。これは十分な武器になる。2020年の東京オリンピック後などはその効果が顕著に出るかも知れない。これらを十全に活かしたいところではあるが、問題なのは団塊の世代の大半が世代交代した後のこと。前例がある。江戸時代生まれ、明治時代の軍人政治家が健在だった頃は人類史上希に見る偉大なる国家転換を成し遂げたが、昭和に入ったとたん、明治大正生まれの世代は先祖返りでもしたようなお粗末な政治判断、軍事作戦をするようになった。私はこれを憂いている。明治と戦前昭和のようなコントラストはこの20年ぐらい後で再現する可能性は十分にある。団塊世代後の世代が、戦後の遺産を食い潰すような意識があればあっという間に日本は没落すると思う。あまり不吉なことは言いたくないが、明治維新から敗戦時までが77年。敗戦時から今年まで70年。興隆して没落する一区切りとしては丁度よいとも言える期間だ。

もっとも日本の民度や教育の高さを考えると一旦三流に落ちても必ずまた復活するとは思う。日本はその程度には強い。もちろんその間の苦労たるや想像を絶するとは思うが、それとて今の中堅国、中進国程度だと思うから、食えずして飢え死ぬようなレベルではないと思う。ま、10年とか20年は続くかも知れないただの貧乏が怖くて自殺する連中もいると思うが、そういう日本人は死んだ方が良いというのが正直な意見。諸行無常、盛者必衰。落ちればまた上がればよいというぐらいの心持ちでいれば、今少し日本人として品格のある優雅なものの考え方ができるのにとも思う。

と、徒然思ったことを記す。

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平成二十七年睦月十四日

不動庵 碧洲齋