不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

恕ということ

論語にこんな一節があります。

子貢問曰、有一言而可以終身行之者乎。子曰、其恕乎。己所不欲、勿施於人也。

子貢問て曰く、一言にして以て身を終るまで之を行うべき者有りや。

子曰わく、其れ恕か。己の欲せざる所、人に施すこと勿れ。

弟子の子貢が「人として一生涯貫き通すべき一語があれば教えて下さい」と質問した。孔子は「それは恕、つまり相手の身になって思い・語り・行動すること。自分が嫌なことは他人にもしない。」と言った。

私が知る限り、「恕」の漢字が出てきたのはここだけではなかったかと思います。

儒教というと「仁」ですが、私は儒教というとこの問答を思い浮かべます。この問答は実は儒教のコアではないかとすら思います。

先日出張で来日した弊社の中国人社員さんについてはブログに書いたとおりでしたが、その後聞き忘れたことがあったので早速メールしました。多分、帰国して忙しかったと思いますが、私は結構突っ込んだ質問をします。

私の問いはこんな感じで。

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先日うちに来ていただいたときに聞くことを忘れたことがあります。

あなたは日本の企業に勤めて10年以上になると思います。

あなたの電話やメールの対応は日本人と変わらないように感じます。

例えば・・・

「お手数ですが・・・」

「すみません・・・」

「忙しいところ恐縮ですが・・・」

というような言葉をよく使っています。いつもとても感心しています。

(最近は日本人でも使わない人が多い!)

そこで、あなたが中国で取引会社と話すときも似たような感じで話しますか?

また、日本の企業で働いていて、いいと思ったことを積極的に中国人相手の仕事の話しにも取り入れて話すことはありますか?

もし使っているなら、相手の中国人はどう感じていると思いますか?

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先ほど早速返事が返ってきたのですが、これまたなかなか感心してしまいました。

早速紹介をば。

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お早うございます。

返信を大変遅れましてすみません。

暫く会社に出てないため色んな事を処理しなければならないのが一つ、

あなたの一つの質問に困り果ててしまいましたことも一つの原因になってます。

最近ちょっと時間ありましたらすぐその言葉を思い出す、考え込んでしまいました。

まず、最初の質問を答えます。

私は中国で取引会社と話す時も似たような感じで相手に話します。

なぜかというと自分が謙遜語を使うと相手が気持ちよくなると思います。

そうすると相手もさすが日系企業ですね、よく教育されてますねと思います。

私は外注先を日系企業と取引出来てよかったと思ってほしいです。

では、その次の質問を答えます。

実はこれはこのメールの一番最初話した困らせられた質問です。

今でも本当にその質問の内容を理解出来たかどうか自信がないです。

日系企業に働いて、いいと思ったことがありましたらやはりそう思った瞬間ではなく、

それから中国スタッフに理解しやすいチャンスを探して都合のいい時を相手に話します。

(ある意味で消極的かな)

話すチャンスをうまくつかまれば大体最後は中国の相手も確かそうですね、

日本のこういうところはよく出来てますねと言ってくれます。

全然反感の気持ちがなさそうです。

これで答えになるかしら。(笑い)

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名前のところは「あなた」に替えましたが、それ以外は私の質問も返事も原文のままです。

どうですか? これでも憎っくき中国人ですか?

中国の人口は日本の10倍。日本人の品行方正さを考慮しても単純計算で10倍以上も悪い人がいるのも確かですが、その逆、なかなか日本人でも難しい事をこのように実践している人もいます。

反日感情が低くはない中国でこれを実践するというのはよほど信念や勇気を要するというものです。

ま、反日感情も実際は日本人が憤っているほどには高くはなく、日本人がいちいちカリカリしているのは中国政府が世論を操作している結果とも言えます。私はそういうものに荷担せずに正しく中国を観たい。

人権や自由が保障されている国の市民としては、先入観や固定観念、もしくは相手国政府の世論操作に惑わされることを恥じねばなりません。

・・・と思うのでした。

平成二十六年如月二十一日

不動庵 碧洲齋