不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

国棄てて どこに流るる 根無し草 その1

私は留学で米国に約3年、仕事で豪州に1年半いたことがあります。

それと年に1.2回は仕事や私事で1回に1週間から10日ぐらいの期間渡航します。

移民と言っても色々な理由で他国に移り住んでいる人がいます。

この辺り、今の日本人にはとても感じ取れないような事情があると思います。

難民もいますし、単に憧れて移り住んだ人もいます。

前者は仕方なく、後者はケシカランというものでもありません。

金儲けの為の移民がよろしくないというのも、ある意味日本人の狭量な視点のように思います。

前者でちょっとショックだったケース。

豪州での話しですが、親を連れてホストファミリーの家に行ったとき、そこの娘さんが友だちを連れてきました。欧州にある某国ですが、ついこの間まで独裁政治によって虐げられてきました。その女の子の父親は本人や母や兄弟たちがいる目の前で射殺されたそうです。そして難民申請が通って命からがら豪州まで逃げ延びてきたとか。北欧系のなかなか可愛らしい女の子でしたが、やはり笑っていても暗い影が差している感じでした。

その娘さんは小綺麗にはしていましたが、やはり家庭は貧しいのだろうなという身なりで、ホストマザーも気を遣って色々食べさせたり土産に持たせていました。その時、私はホストファミリーの娘さんにプレゼントで80ドルもした日英辞典をあげました。その頃彼女は丁度中学校で日本語を学んでいた為です。

難民の娘さんも日本語を学んでいたようですが、彼女にとって80ドルというのは話にならないほどの大金だったようで、その辞書をめくりながらため息をついていたのが印象的でした。本人が持っていたのは中古と思われるボロボロになったしかもポケット辞書でした。正直胸が痛くなったのを覚えています。

数日後、私はメルボルンにある語学専門店に行って同じものを買って、その難民の子にプレゼントしてあげました。

数回彼女を見ていましたが、その時初めて明るい笑顔を見せてくれました。泣きそうな程に喜んでいたのが、私にもとても嬉しく感じました。その時彼女から、何か記念にその辞書の中から一番言いコトバに線を引いてくれと頼まれました。

私は迷わず辞書の一番最後に近いページを開き、漢字にしてたった一文字の項に線を引きました。

和/わ/(wa):the sum, unity, peace, harmony, Japan.

彼女は最初はビックリして、それから不思議そうに、しかし食い入るようにその言葉を見つめていました。

私は彼女に「日本をもっと良く知れば、この意味がきっと分かるときが来ると思う」と言いました。今彼女は20代半ばです、これが役立っているのでしょうか・・・。

真夏に遠足に行ってもみんながアイスクリームやシャーベットを食べている中、そういうものが買えない、やはり難民の子供もいました。その時私は豪州の小学校で日本語を教えていましたが、そういうときは自分でシャーベットを買って、一口二口食べてから「ちょっと腹が痛い」と言ってその子にあげたこともあります。薄幸の少女というシチュエーションには弱いんだよなぁ(笑)。日本人としてそういう場面があることがどうしても許せないというのが本音です。もちろんクラスメートたちも気遣って一口二口その子にあげていましたが、そういうのは逆に残酷な気がしないでもありません。

豪州に限って言えばちゃんと税金を払って犯罪を犯さず、産業にある程度貢献できるのであれば犬でも猿でも来たれ、みたいな感じです。国の大きさに対して人が少ないのです。

豪州に赴任中、2回ほどビジネスビザの更新をしたのですが、イミグレーションに幾たびに係員が「永住権の申請はいかがですか?あなたの条件であれば今なら市民権もお得です。」とか売り込んできました(いや、本当に)。これには面食らいました。永住権は分かるけど、市民権って豪州国民になるってことだよね?思わず聞き返していまいました。担当係員は朗らかに笑って答えてくれましたが、そういう類の問いじゃないでしょうが、って内心引いてしまいました。曰く、日本人は元々の審査ポイント?みたいのがとても高くて、ちょっとした産業に就けそうな日本人だったらかなり楽に永住権や市民権が取れるのだそうです(当時は)。

その頃の日本語学校の同僚にニュージーランド人がいたのですが、彼女は豪州の恋人と同棲していて婚約する予定がある、というだけで豪州の市民権が取れると言っていました。まあ豪州とニュージーランドは兄弟国のようなものですから。しかしその言葉を聞いて考えさせられました。そんな簡単にその国の国民である権利を放棄できるのか?ネットを見渡す限りに於いては(苦笑)決して熱烈なる愛国者ではありませんが、それでも1億円を積まれても日本国民を辞めようとは思いません。お金の問題じゃないんですね。うまく言えませんが。

たぶん、日本人にとって国籍というのはある意味水とか空気のようなもので、見たり味がしたりするわけではないけど、それがなかったら1分と生きてはいられないようなものだと思います。逆に人工国家である豪州や米国などの国籍は肉食系高級レストランの料理のような濃厚な味なのかも知れません。正しい比喩かどうか・・・。

温厚な私でも必殺の一撃を食らわせてやりたくなるような取舵団体の皆様だって、後援してくれる国家に行きたいなんて思ってないでしょう(だから私は彼らを理解できない)。隣国には狂ったように愛国を叫びながら、隙あらば海外脱出をしたいという人たちもいます。まあ、そういう国は世界でも幾つもないでしょうけどね。

個人的見解としては、どこの国に行ってもそんなに言うほど良くはなく、内乱や戦争でもない限りはやはり生まれ故郷が一番です。ま、若い頃は色々よその国には行ってみるべきだとは思いますけど。

長くなったので続く・・・

平成二十五年霜月二十七日

不動庵 碧洲齋