不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

トルコの想い出

私はトルコに行ったことはありませんが、何人ものトルコ人と会ってきました。

同門にも留学中にもいましたが、一番思い出に残るトルコ人がいます。

豪州メルボルンに赴任中のことでした。

海外赴任と言えば聞こえは良いのですが、笑ってしまうぐらいの超低給料で、エベレストより高い仕事量という日本語学校でした。

まあそれでも日々仕事をこなしていったわけですが、それを支えてくれたのが現地の食べ物(笑)。幸い日本料理もすぐ近くにあり、和食には事欠かなかったのですが、豪州に行ってから習慣的に飲むようになったのはカプチーノ。どういうわけかあちらの方はよく飲みます。ま、20年近く前の話ですから、現在の日本でもよく飲まれるようにはなっていますが。

学校が入っているビルの前にカフェがありました。そこのオーナーのおじさんがトルコ人でした。とても陽気な方であるのはもちろんですが、大の日本ファン。アルバイトの多くは日本からワーホリで来た日本人。5.6人いるバイトのうち、日本人以外は大抵1.2人でした。働いたことがある日本人からなのか、日本のお土産が店のカウンターのあっちこっちにありました。

いつの頃からか、毎朝そこでカプチーノを買うのが習慣になりました。

陽気なトルコ人オーナーはいつも「今日は砂糖を何杯入れるんだ?」と尋ねます。

朝から仕事の量の多さに辟易しているときなどは「疲れているから2杯ぐらい入れた方がいいぞ」とか言って、こっちが返事する前に勝手に入れていたりします(笑)。

逆に気分がいいとお願いしても砂糖を入れてくれません。私は甘党なのですが。

そしてこれもいつの頃からか、朝来ると何も言わずに必ずカプチーノを出してくれるようになったのですが、砂糖の加減も勝手にアレンジしてくれました。朝、店に入るとオーナーは私の顔をちらっと見てササッと淹れてくれます。どういうわけかバイトたちにはやらせませんでした。その加減たるやなかなかのもので、そのうち彼に任せるようになりました。

いろいろ私的公的に思い悩むときなどはクッキーを付けてくれたり。

このときにトルコの親日度合いを知ったのですが、驚いたことにこのオーナーのおじいさんは「エルトゥールル号遭難事件」で知られるエルトゥールル号の乗組員で、以後家訓として?親日たるべしということでした。本当に熱烈な日本ファンです。もっともまだ日本には行ったことがないそうで、その内ぜひ行ってみたいと言っていました。

一度、学校に入るためのカギを忘れて大変な事がありました。朝の日本語クラスのために学習者が数人来てました。当時滞在していたホストファミリーの家から学校までは片道1時間もかかります。コリャ困ったと思っていたところ、トルコ人オーナーが出てきて、それならこの店を使って教えなさいと申し出がありました。全く有難かったです。バイトの日本人に聞いたところ、この方はなかなかの人格者で皆から慕われているとか。よく分かります。

一度両親を連れて豪州に行ったときもそれはもう大変もてなしてくれました。

それ以後、その店を訪れることはありませんでしたが、「おやじ、いつものやつ」で通じた数少ない店でした。

トルコはアラブ地域では一番アラブっぽくない国と言われています。(言っているのは同じイスラム教の人たち)おもしろいのは同じイスラム教国家のインドネシア親日国家と言うこと。もっとおもしろいのはイスラエルもなかなかの日本びいき。世界における日本の立ち位置というのが見えてきます。

今でも私は例えばスタバでは真夏を除きカプチーノ以外を注文したことがありません。そしてカプチーノを飲む度にメルボルンにあったトルコ人オーナーのカフェを思い出すのでした。

平成二十五年長月十二日

不動庵 碧洲齋