不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

私が見たロシア人 弐

当流に入門後、幾人かのロシア人たちと会ってきました。中には特殊部隊の方もいました。それまで私が想像したロシア人は大方「ランボー」かハリウッド映画の悪役でしたが、意外に気さくであったのには驚きでした。まあ、真面目というのはそのままでしたが。

今の親しくしているロシア人友人と知り合ったのは2008年。丁度父が他界した年です。数ヶ月前に死んで、気分がうち沈んでいる折、先生が来日したロシア人をどこかに案内してやってくれと私に頼みました。個人的には今はそれどころではないと思ったのですが、断るわけにも行かず、やむなく群馬の山奥の禅寺に案内しました。道中ものすごく静かでこちらが質問しないと答えないくらい。答え方にせよ仕草にせよきまじめそのもの。禅について幾つか質問があったのでいちいち答えるとなかなか感心したような感じでした。

以後、彼とは親密になり、来日する度に良くあちこちに行きました。そして2010年には初めてロシアに行きました。以後、今夏まで出張も含めると4回も行った計算になります。

ロシア人で一番強調したいのは・・・美人が多い!

金髪で色白、碧い瞳でパーフェクトボディ・・・でしょうか(笑)

普通にモデルさんみたいな女性が街を歩いているんです。確かにシャラポワさんがモスクワを歩いていてもそんなに目立たないと思います。友人たち曰くシャラポワは「中の上」だとのこと。それで親日だというのですから、日本人男児にはこれが天国でなかったら何でしょうか(笑)。それでいて欧米人みたいに人前でイチャつかない。これもソビエト時代の遺産なのかどうか分かりませんが、これも日本人にはとても気持ちよい。留学中、車を運転していたら、1ブロックごとに赤で止まる度、前の車に乗っていたカップルが濃厚な愛情表現をしていて、青になってもなかなか進まず、かなりイライラしたことがあります。こういう美男美女で慎ましいというのは日本人にはとても受けがよろしい。

あ~でも残念なところが。やっぱり接客業というのがまだ浸透してませんね。仕事で対応したときでも相手ににこやかにする、これが新しい常識なのですが、中国やロシアでは未だ仏頂面しています。先日などは空港の出国審査官見習いの可愛らしいお嬢さんまでもが仏頂面していたので息子も私も吹き出しそうになってしまいました。こういう感覚は、多分、社会主義圏の人には分からないだろうなぁ。

アメリカに比べると健全な肉体を持っている人が多い。まあ、確かに肥満の人もいますが、アメリカの異常さに比べたらロシア人は遥かに健全です。私が観察したところでは、アメリカ人ほどには間食をしません。ソビエト時代の苦しい経験のためか、やたらと食べる習慣がないようです。同じようにものを大事に使います。これはアメリカ人と同じですね。家でも車でも、本当に最後まで使う人が多いです。

忍耐強さ。渋滞にはまってもじっと我慢です。日本の渋滞よりもたちが悪いです。まあ、側道などでも走る人がいますが、側道も渋滞してますので同じ事。みんなじっと我慢の子です。どこぞのキレやすい国民とは全然違います。忍耐強いので思慮深い人も多くいます。軽率さが似合わないような国民かも知れません。寒い国だからかも知れませんが。そういうこともあって以外に外国人に対しては恥ずかしがり屋です。この辺り、日本人に似ている部分があります。欧米人の顔立ちでもロシア人は日本人と比較的通じるものを感じます。

信心深さ。ソビエト時代、モスクワにあった中心的な大寺院、救世主ハリストス大聖堂は取り壊され、市民プールになってしまいました。しかしソビエト崩壊後、特にプーチン氏が大統領になってから復興させ、今では輝くばかりに美しい寺院になっています。それ以外の教会や地方のモスクなども修復されたりしています。今でも一般家庭に行くと、壁1枚に付、大抵ロシア正教会の十字架のシールが1枚ずつ貼ってあります。日本で言うところの御札でしょうか。そしてイコン画が飾ってあります。そして教会に行く人はそんなに多くないようですが、信心深い人は多いです。救世主ハリストス大聖堂に行った折、老いも若きも世界平和の為に真摯に祈っていたのが印象的でした。

ロシア人はある意味アメリカ人よりも戦争が嫌いなように感じます。特に今、暗いトンネルを抜け、やっとみんなが自由に暮らせる時代に入ってきた今、アメリカみたいにあっちゃこっちゃにちょっかいを出すくらいなら、外交で適当にあしらおうと思っているようにも感じます。軍事力はまた復興してきていますが、アメリカほどには出動していないでしょう。兵士らの待遇も過去に比べてお話にならないほど良く、ソ連時代にひもじかった兵隊たちとは隔世の感ありです。みんな戦争には行きたくありませんし、アメリカと張り合おうなどとばかげたことも考えもしません。多分、まれに日本領空を周回する爆撃機パイロットだって政治的な判断で飛んでいることが多いと思います。

ロシアではYouTubeフェイスブックも自由に見られます。よほど物騒なことでもない限り政治について議論できますし、禁句もありません。ネットの監視はあるのでしょうけど、どこぞの国とは違うと思います(苦笑)。これだけ自由にネット上で交流できるのにそれをしないで勝手に北方領土返還とだけ叫んでいる日本人にはいささか同調しかねます。

ロシアには美人が大勢いるだけでもうらやましいのに、非常に素晴らしい大自然があります。ロシアではそこいらの森でキャンプして良いことになっているそうです。土地がいっぱい余っているので、結婚した場合、二人目には結構な現金が(ちょっとした自動車が買えるほどだそうです)、三人目になるとなんと国が土地をプレゼントしてくれるそうです。(ま、どんな土地かは分かりませんが)日本ではあり得ないほどうらやましい限りです。あ、自然の話でした。モスクワ市の大きさは東京都とほぼ同じですが、黒々とした森があるのに土地不足で高騰しているとか。日本人の私から見ると「ヲイヲイ」って苦笑してしまいます。もちろんそんな景品を出さねばならないくらいに人口が増えてないって事ですね。

ロシアには2種類のロシア人がいます。簡単に言うとソ連時代経験者かそうでないかです。ソ連時代経験者は上記のような感じですが、ロシア時代のここ10-15年ぐらいで生まれてきた世代は、正直アメリカ人などの言動、しぐさとほとんど変わりません。好きなときに好きなものを好きなだけ買える。言いたいことが言え、知りたいことは知り、自分の幸福のためにだけ活動でき、自由に海外に行ける。どうなんでしょう。苦しい時代に生きた人たちの美徳が失われつつある現状というのは。正直私は複雑な気分です。

ロシアに行くと友人宅の近くにあるカフェに行きます。そこの店員のお姉さんが美人というのもあるんですが(笑)、彼女が働いている様がとても楽しげなのです。カプチーノの泡の模様を一生懸命に作るのですが、それがかなりうまい。英語が話せたら欧米圏でも通用する腕の持ち主です。それを楽しそうに作っています。そして楽しそうに掃除もしますし接客もします。多分、ロシアになってから生まれた世代でしょうけど、こういう若者が増えたらいいなとも思います。

夏になるとロシア人の食事の回数が変わります。1食の量を減らして5回ぐらいになります。理由は簡単、夏になると日が長くなり、22時ぐらいでもうっすら明るいぐらいです。だから長い1日のためにちょっとずつ食べるんでしょうね。あ、ロシアンティーはおいしいですよ。ジャムを食べながら飲みますが、友人のお母さんや奥さんが作ったジャムなどで飲むと最高です。食べ物は一般家庭の食べ物は美味しいです。まあ、自慢になりますが、地方の一般家庭に泊まったり、食卓につく機会は普通の日本人ではまだ少ないでしょうね。レストランでももちろん美味しいところはありますが、私は一般家庭の味がとても好きです。

モスクワやその郊外では日本食レストランがたくさんあります。多少高いですが味はまずまず。日本の食材や料理はまず敬意を持って見られています。まずまず一般的になってきていますね。

厳しさもあります。働けば働いただけ豊かになれるという厳しさです。共産党時代は決まったことをしていれば保証してくれました。私なんか怠け者なので実はこういうのは嫌いではありません(爆)。友人のお父さんはかつてソビエト国内ではなかなか名の知れたサッカー選手だったそうですが、交通事故で(当時車を所有していたと言うこと自体、名誉だったって事ですね)怪我をしてからバスの運転手になったとか。それでも生活はそんなに大変ではなく、ロシアになってからがとても大変だったというコメントが印象的でした。彼にとっては何でも保証してくれるソビエト時代の方が良かったと言うことです。マジかよ、と思いましたが、友人宅の近所をぶらぶらしていると、古びた家の前で猫とぼーっとひなたぼっこをしているおばあさんを見ていると、確かに生きた馬の目をくりぬくような資本主義社会よりは社会主義の方がいいこともあるのかと思ったりします。老人や障害者にはソビエトはそれほど悪くはないと言うようでした。交通網も発達していて、タクシーやバス、トロリーバス、トラム、地下鉄、鉄道はモスクワの郊外にまであり、老人が一人でも都心に出やすくなっていました。でも若者や中年は慣れない資本主義流の生き方で必死になっていて、その親たち(上記のおばあさんたち)は複雑な思いで子供たちのことを祈ったり想っているのでしょう。友人のお父さんはしかし、そういうことは言ってもとても暖かい方で私をいつも歓迎してくれます。言葉は全く通じませんが、人生のほとんどをソビエトで過ごした人というのも、このように暖炉の薪のように暖かい人が多いのだと思います。

ロシア国土は大きい。残念ですが日本人は全体を見渡せてないし、そもそもちゃんと見ているかどうかも怪しい。インターネットによって時間や空間に縛られずに人と交流できると分かっていても、果たしてその核心的な利便性をどこまで用いているのか。そういう相手を知るという大切なプロセスをスキップする人ほど、残酷なことを言ってしまうな気がします。

ロシアはとてもいい国です。観光で行くにもまだ、ビザが必要という、日本人にはある意味屈辱的(笑)な待遇ですが、行くに値する国だと私は思います。まだ噂ですがこのビザ制度も数年後にはなくなるという話も聞きます。これもまた両国の政治家の努力なのか、日本人の資質なのか。ぜひ皆さん、一度はロシアに行ってみて下さい。

平成二十五年葉月三十日

不動庵 碧洲齋