不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

私が見たロシア人 壱

ロシアに限った話ではないのですが、私はつくづく「入ってくる情報はベクトルがかけられているなぁ」と思います。これは特にIT社会になってから強く感じます。

例えば日本では毎日殺人事件が何件か起きています。IT社会故にそういう情報は早く正確にニュースに流されます。流されている情報そのものは正確かも知れませんが、ショッキングな情報の方が視聴率が取れる訳ですから身近なほんわかしたニュースよりはそっちを流すわけです。・・・現実に警察庁の発表によると殺人事件は少なくなってきているそうです。言うまでもなく交通事故も減ってきました。が、憤りを強く感じるとてもひどい事故ばかりが流されます。で、結局交通事故は減っているという事実が霞んでしまうわけです。

今、欧州で一番景気がいいのは文句なしでロシアです。でも市井の方々でそれを知っている人が一体どのくらいいるのやら。ロシアって親日度が高いことを知っている人はどれほどでしょう?そもそもどんな民族か、見たことがない人がほとんどです。

まるで地球が未知の侵略者ガミラスを悪魔呼ばわりしているぐらいの無知さを感じます。北方領土問題は厳然としてあります。そしてそれはロシア国民もちゃんと理解しています。

・・・ロシア国民ってどんな人でしょう?・・・

一番西では例えばモスクワやサンクトペテルブルグの都に住んでいる人たち。一番東はウラジオストックとか。

稚内に住んでいる人たちのロシアの認識と与那国島に住んでいる人たちのロシアの認識って同じですか?世界的にとても狭い日本、一枚岩でありたいところですが、思うに私はかなりかけ離れていると思います。

国土にして日本の45倍です。横幅は9000キロぐらいある、世界で一番大きな国です。その東端と西端の人とでは意見がどのくらい違うものなのか、想像できますか?

・・・こういう問題は多分、日本人が一番不得手とするようなもののように感じます。何故かというと日本人は単一民族でしかも国土が狭いから。現実問題として異民族が一国家と言うことがなかなか想像できません。

北方領土返還に一番反対なのは言うまでもなく極東の人たち。でもそれは多分、住んでいる場所と言うよりは漁場の問題が多きのかと思われます。

モスクワ市民のかなりの多くは「そんなもの返してしまえばいいのに」だそうです。もちろん、その代わりシベリア開発とか協力してもらうわけです。ご都合主義というなかれ、遥か遠い中東からせっせと原油を運んでくる手間を考えたらどれほど楽になるか。(世界地図を見てください)そしてロシア人曰く、シベリアで増殖し続けている、不法滞在している某異国民を駆逐できるのが何よりとのことでした。これもあまりニュースになってませんが、この不法滞在者、日本とは比べものにならないほどひどいもので、プーチン氏でも頭を痛めているとか。開発が入り、日本の資本を入れて、彼らを排除したいのだそうです。

モスクワの建機ディーラー数社を回ってきたことがあります。ロシア人が信じる製品は二つ、日本製とドイツ製だそうです。ロシア西部の中規模以上の都市には必ず立派な武道館があります。私設スポーツクラブでも畳の柔道場があるところは珍しくありません。日本料理店もたくさんあります。もちろん結構な親日です。だいたいプーチン氏は柔道5段ですし、その娘さんは日本史を勉強しています。

それならさっさと北方領土を返せばいいのにと言う辺りが現在の日本人が外交問題に関してとても下手だと感じる部分かと。やはり異国文化に日常的に接していたり、異国民族と頻繁に接していないとその間合いがよく分かりません。

ロシアで自由にモノが言えるようになってまだ10年ちょっと。今でこそクレムリンの中で「プーチンのバカヤロー」と叫んでも無視されるかちょっと怒られるか、もしかしたら追い出される程度ですが、ソビエト時代はもちろんそうではありませんでした。

選挙で首長を選べるというのもまだ、この国の国民にはなじんでいません。去年などはロシアの友人から選挙に行くべきかどうか相談を受けたほどです。

つまりロシアの政府はまだ、国民の総意が完全に反映されているとは言い難いのが現状です。それでも議会政治は徐々に民主的になってきているのも事実です。

江戸時代から明治時代に移行するのとは訳が違うと考えてください。ああいう離れ業は島国で単一民族民度が高かったという好条件もあります。普通の国なら大戦争です。

日ソ中立条約を一方的に破棄したのはソ連だという向きもあります。この手の条約はある程度同等の軍事力があって守られるべきもの。連合軍にボコボコにされて弱体化していても守る類のものかどうか。そもそも戦争は人道に反してますから、義理や人情で条約を守ることはありませんし、守って当時のソ連に何かメリットがあったとも思えません。戦争は大抵、負けると悲惨なものです。世界の大国で条約などを律儀に全部守った国がどれほどあるのか、疑問に思います。

私から言わせればまともな迎撃力ない日本軍を尻目に、大都市の悉くを超重爆撃機の大編隊で爆撃を繰り返し、新型原子爆弾を2発も落として一般市民を何十万人も殺戮する方も相当に悪辣な行為だと思いますがどうでしょうか?

要するに今の私たちのロシアに対するニュースソースや視点は思い切りアメリカよりなのです。

ソビエト時代末期とロシア連邦建国当初10年ぐらいは本当に踏んだり蹴ったりの、とても大変な時期でした、とロシアの友人らは言います。半分本気でそれなら帝政ロシアの方がまだましだったと言ってました。(まあ、これは日本人が江戸時代に憧れを持つ感じでしょうか)友人は34歳ですが、小学校高学年、ソビエト末期では国がどんどんみすぼらしくなり、国力が衰えてきているのがよく分かったと言っていました。また、寒い中、母親と食料を得るために並んで辛かったとも言っていました。その後、ロシアになってから10年ぐらいは国の中がメチャクチャに荒れて大変だったとのこと。それがあって今のとても豊かな時代があることをとても大切にしています。彼らにとって今ある豊かさに比べたら、極東のみすぼらしい島などはさっさと平和裏に返却してかつ、日本ならよりよい関係にしたいと思っている人が多いように思います。

極東の人たちはさすがに反対しますが、人口比率で言ったらごく僅かです。ただしロシアの首長にある人はやはり国全体を見渡さなければなりませんから「はい、それじゃ返します」とは安易には言えません。しかし昨今のロシア政府の態度は今までになくかなり良い方向に向いていると思います。プーチン氏はとても頭が良く、逆に頭が悪い人が嫌いのようです。(特にその国のブレーンクラスは)ロシア国民からも決して人気が高いわけではないのですが、何と言ってもこの人あっての今のロシアです。政治的力量は相当なものです。個人的に武道家でもあるプーチン氏の生き様には好感が持てます。無論、少々やり過ぎの嫌いがありますが、多分、高速で国を立て直すときはそういうゴリ押しもあると思います。何でも民主的平和的だったら時間がかかるというものです。(というかソビエト崩壊後をまとめられなかったかも)

長くなりそうなので、これも分けて書きます。

平成二十五年葉月三十日

不動庵 碧洲齋