不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

私が見た豪州人

オーストラリアというと太平洋の反対側で日本からかなり遠いと感じるかも知れません。現実に最近私が良くロシア・モスクワまでが10時間弱に対してシドニーでも10時間以上かかります。観光としての対象であることが多いと思います。しかしオーストラリア人は環太平洋という視点で観ていることが多く、太平洋に接している国々と繋がっていると考えている人の方が圧倒的に多く、主導が白人であっても、自分たちが欧米の一員と考えている人は少ないようです。また、経済も現在にあっても日本と強い繋がりがあり、農業製品などは今でも日本のスーパーでよく見ることが出来ると思います。豪州最大の貿易相手国は日本です。

アメリカと違い、人口はたったの2千万人ちょっと。しかもほとんどが沿岸部に住んでいるだけあり、インターナショナルとはほど遠い人は少なかったように思います。また、アメリカと違い、平和的にイギリスから独立したために歴史上ではそんなに劇的なことも多くなく、悪く言えばアメリカよりも退屈、良く言えば平和的です。

言うまでもなく親日的な国です。農業工業どちらでも日本人ビジネスマンは高く評価され、特に結構な田舎でも農業指導にやってきた日本人がいて、敬意を受けていたようでした。一度などはメルボルンから350キロも離れた田舎に、なぜか私設の戦争博物館があり、嬉々として中に入りましたが驚きました。大きいものを除くと、展示品は遊就館顔負けのものでした。オーナーのおじいさんも私が日本人であると知ると大喜びで旧日本軍の装備を倉庫から持って来て、これは何だと尋ねてきました。英語ができてある程度軍事について知っていると分かると大騒ぎをして、近所の軍装品マニア仲間に電話をかけて5.6人も集まり、中には将官クラスのものとおぼしきものすごく煌びやかな軍刀などもありました。

豪州軍も第二次世界大戦に参加しましたが、日本に対しては戦争の負の感情はとても少ないと言えます。常に最前線に出されて結構な被害が出たとか。故に連合軍司令部にはある意味、恨み辛みの感情を持つ人がいるようです。故に戦後、豪州人と結婚した日本人は(多くは女性ですが)とても大切にされ、連合諸国では多分なかなか夫婦関係もよろしいのではないかと思います。

豪州にはかれこれ20年近く関係を保っているホストファミリーがいます。初めて豪州に赴任した際に現地の小学校で日本語を教えたのですが、その折に滞在した家庭です。当時はお父さんとお母さん、15歳の長男と10歳の長女という、日本ではごくありふれた家庭です。今では長女は28歳、いやいや光陰矢の如しとは言ったものです。

その家庭は基本的に無宗教と言っていました。ただし大自然に対する畏敬の念は持ち、先祖を敬うという感覚があります。それだけに日本人の宗教感覚についてよく理解してもらえたような気がします。両親は典型的な豪州人で、話し方もいわゆるオージーイングリッシュで、最初は聞き取るのが大変でした。また、植民地から独立を果たした国の民族らしい、慎ましやかでものを大事にして、自主自立というものの考え方もアメリカ人同様に素晴らしいものでした。

アメリカではごく僅かしか機会がなかったのですが、豪州では私は学校の一職員として短期間ながら働き、社会生活をしてきました。多くの学校は親たちのボランティアによって成り立っていて、親たちの理解なしでは運営ができません。程度に差はあっても保護者たちは皆、学校に協力しています。

アメリカでもそうですが、オーストラリアでも離婚が多く、子供たちは片親だったり、親のどちらかと恋人と住んでいる、というパターンも多くありました。こういうのはどうなんでしょう。私は子供に決してよい影響があるとは思えません。子供のために嫌なパートナーと我慢して住む、という事ではありません。そう考えているエゴイズムをなくせと言う意味です。子供のためならどんなことも喜んで受け入れるべきです。だいたい万事が自分の思うように進むと思うこと自体が間違いです。割に家庭が不幸な子供ほど、良く私に懐きました。任期の終わりに子供たちに演武をさせるため選抜をしたのですが、なかなかデキると思って選んだ子供の大半が家庭事情が良くなかったことには驚きでした。子供の方がよほどしっかりしています。

かつては白豪主義と言われた豪州ですから当然人種差別もありました。この頃は日本人としての誇りも高かったことから、よりによって日本人を差別するとは何事か!という気概もありました。しかしちゃんとした理屈もあります。日本人は決して他人に迷惑はかけません。かなり民度が高いと言うことはよくよく理解されていたため、差別する人は概して単に肌の色、非基督教というだけで差別したようです。

最初は上記の小学校勤務から日本語学校に異動してから。業務で銀行に行ったとき。分かるんですよね、初めから差別をしようとする人の表情というのが。銀行員は最初から私のリクエストなんか聞く気もないので、言っていることが分からない、それはできないなど適当にあしらわれました。仕方ないので今度は現地人スタッフを連れ、当の銀行員とその上司を呼んでクレームにしました。私も穏当に済ませたかったので上司に私が何を言っているのか試しに話しましたが、もちろん彼は理解できました。豪州人スタッフは怒りに震えていましたが、私は大恥をかいて真っ青になったり真っ赤になったりしていた女性行員の表情を楽しみながら、切々と人間として何が一番恥ずかしいかを語りかけました。彼女が反省したかどうかは分かりません。

もう一つはパソコンショップで。たまたま平日休みだったので、私服でパソコンショップに行き、学校で必要なパソコンを買うために吟味していましたが、店員は突っ立っていて薄ら笑いをするだけで案内するそぶりもなく。一度試しに呼んでみましたが、そもそも売る気もなく。そのうちスーツでやってきたビジネスマンが数人入店すると、すっ飛んでいきました。少々腹立たしかったので翌日、仕事の合間にその店に行きました。もちろんスーツで。そうすると店員たちはにこやかに揉み手をしてやってきました。私は冷ややかに「パソコンを10台ほど買おうと思ったのですが(本当は2.3台ですけど)、私のスーツには支払い能力がないので諦めます。」と言い放ちました。きょとんとした店員に「私は昨日私服で来店しましたが、あなたの態度は最悪でした。今日、スーツで着たらそういう態度です。それなら私のスーツにパソコンを売ればよい。できたらね。日本だったらあり得ない接客態度です。100万円分ぐらい損しましたね。それじゃ」と言い放って店を出ました。一休さんでも似たような話があったので気分は爽快でした。

豪州に元々住んでいたアボリジニーにはほとんど出会ったことがありません。芸術関係で教育者であるアボリジニー数人に会っただけです。しかし伝聞や現地の警察官の友人数人に聞くと、やはりどうしても忌み嫌われてしまう要素が少なくないようです。まあ、後から勝手にやってきて、好き放題にしている白人にも大いに問題がありますが、今そんなことを言っても仕方ありません。やはりここは白人たちの生活というかルールを守るべきです。また白人たちもマナーを多少逸脱しても寛容に見るべきです。この辺りとても難しいと感じさせられました。一方では隣国ニュージーランドマオリ族に関しては政府が強力に指導してきたこともあって、多少の政治的パフォーマンスもあるのでしょうが、豪州よりは成功しているようです。

差別する人はもちろんごく希です。大半の人たちは他の世界と同様に、アジア人でも日本人は格別な扱いであることがほとんどです。しかしたとえば海沿いの景色の良い別荘の多くは日本人によって買い占められていて(現在は分かりません)しかもほとんど利用されていないのを見たら、さすがに不満があるというもの。今、日本人が嫌悪の目で見ている中国人さながらの行状を日本人も海外でしています。

また、私がいたメルボルンの中心的なビルの中には日本のデパート、ダイマルが入っていました。ダイマルが開店するまではメルボルン市民は土日は市場を除いて一般店舗は休み、皆家族で教会に行ったり、家で過ごしていました。ところが日本企業が現地に参入して「サービス業は土日は働くべし」というスタンダードを掲げたところから、サービス業の方々も土日は働かざるを得なくなりました。海外の多くの国では仕事を定時に終えて、その後家族で買い物をしたり、労働者の権利を行使して平日に休んでやはり家族と買い物をしています。だからわざわざ週末に買い物をしなくても日本ほどには困らないのです。しかし土日に店を開くともっと儲かる、という考えが普及すると瞬く間にメルボルンでは数万人が土日も駆り出されるようになりました。彼らはもっと儲かるようになって幸せなのか、土日がゆっくりできなくて不幸せなのか、各々で考えてみてください。

生き物について、意見の一致を見ないものもありました。もちろん鯨です。幸いホストファミリーは理解を示してくれましたが、やはり多くは捕鯨反対です。ニュースソースは日本が中韓の比較的悪いところを多くニュースにするように、やはり捕鯨の悪いところを多く放送しています。一度、小学校であまりにしつこく高学年の子供たちに詰問されたので、私も大人げなく反撃してしまいました。日本では江戸時代まで肉を食うために生き物を殖やして、計画的に殺害するという、およそあり得ない産業はなかった。人の都合だけで殺すために生命を産ませる、そんな恐ろしげな事を日本人に教えた西洋人はどういうつもりだったんだ?日本人はあるものだけを採り、感謝して頂く。もちろんそれは採りすぎてはいけないけど、捕鯨がどのくらい取り過ぎなのか、みんなはちゃんと数を把握しているのか?牛や豚が良くてどうして鯨はだめなんだ?捕鯨だって最初は教えたのは西洋人だ。自分たちの都合で最初は良くて後になって悪くなる。ちょっと無責任すぎないか?誰か説明できるのか?今やっている映画のベイブは元々食べられるために生まれてきた豚だぞ。今日本では牧場はあるけど、毎年殺された家畜のために供養しているけど、この国ではそういうことはしているのか?

ちょっとキツかったのか、泣いてしまった子供もいましたが、学校の先生方もとても納得して頂けました。世の中にはそういう考えかtがあることを理解してくれたようです。

ここでは敢て豪州の白人についてのみ書きましたが、実際は多民族国家なので、かなり多くの国からやってきています。東南アジア、東アジア、ヨーロッパなど、数十カ国の人々が普通に生活して働いていました。(そういう方々も多く、私が勤めていた日本語学校の生徒でした)

平成二十五年葉月二十九日

不動庵 碧洲齋