不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

日本人であること

私は20代の頃の約半分は海外にいました。その後も数回ほど海外出張や観光などで海外に行く機会がありましたが、日本でも武芸をしている関係でかなり多くの国の同門と毎週顔を合わせています。そうしていると、自然、日本人としてあるべきスタンス、姿勢というものが自分自身の中で醸造されてくるものです。

これは外国人がイメージしている日本人像に合わせる、とか、日本人が外国人に見せたい、魅せたいと思っている側面とか、日本の伝統に則して外すことができないとか、色々ある内の一番コンセンサスの取れたものが、今の自分であることは間違いありません。従ってこれは私だけの基準ですのであしからず。

私が日本人として拠り所にしているスタイルがあります。「万延元年遣米使節」の様子を語った米国人記者の中に「彼らは非常に穏和な表情をしていた」という下りがあったのを覚えています。侍は決してケンシロウみたいに怖い顔をしていたわけではなかったんですね。或いは日本、中国、朝鮮を訪れた欧米人旅行者達がはっきりと書いているように、同じアジア人でも日本人は庶民であっても他国に比べて聡明な感じがしたというのは、やはり識字率の高さや素養の高さを物語るもの。言いにくいのですが、同じアジア人でも確かにアホ面をしている人が多い国は確かにあります。どことは言いませんが。

立ち居振る舞いはそれに現れます。例えば今回の展示会の時など、お客様の前、公衆の前で平然と座って携帯をいじるようなことはありえません。ブースの中であからさまにだべりながら昼食を取ることもあり得ません。ブースの中はきれいにしておきます。お客様に不快な気持ちを持たせないように表情にも気をつけます。これは多分、日本人であればたとえ慣れていなくとも常識のレベルであることは言うまでもありません。(最近は少々危うげですが)そこが日本人が高く評価される部分です。その上で能力があるのですから、反日を標榜する国ですら敬意を持たざるを得ないのはそれが為です。

意味のないごまかし笑い、意味もなく開いている口元、だらしない格好、だらしない身だしなみは日本人の品格を貶めます。もちろん、それだけではダメです。それに見合った素養も必要になります。素養というとどれだけあればよいのかと思うでしょうが、そうではありません。素養というのは「たゆまずによりよきを目指しているその姿勢」を指すのではないかと私は思っています。これだけ知っていればよいというのはありません。これではダメだというのは量ではなく姿勢です。この辺りは外国人がイメージする日本人かも知れませんが、勤勉であること、これです。

誠実であれと言うのは言うまでもなし。相手が不誠実であろうがなかろうが、誠実を貫き通す。ビジネスの場ではだますかだまされるかなどという方もいますが、少々の損をしても誠実に傷をつけないことぐらい大事なことはないと考えます。あくまで少々という場合ですが。長い目もしくは大局的に見たら誠実であることはおおむね盤石です。蚊に刺されたぐらいでうろたえない程度の度胸は要りますが。

日本人の得意技、おもてなし。私は少々苦手でよく文句をつけられますが、万能な人はいないでしょう。文句を言う人だって果たしていつも完全なのか疑問です。しかしながらいつも相手の身になってと言う基本は常に肝に銘じておきたいところ。昨日行った日本レストランではお手ふき一つあるだけでよそのレストランとは格段に違っていました。

レストランついでに食べ方。テーブルマナーを知らなくとも良いのです。汚く食べないこととがつがつ食べないこと。残さないこと。できたら優雅に食べること。私などは朝は給仕の手間を減らすべくフォークだけ使ってナイフは使いません。皿もいちいち取り替える人がいますが私は同じ皿を使います。また、今このホテルに滞在している人は多いのでさっさと食べて席を明け渡します。テーブルマナーはTPOに即して行いたいところです。

今日も地下鉄内で施しを求める方がいました。今日は用意をしていたので本当に僅かですが施しました。これは友人と語り合ったのですが、彼らが本当に病があり住民権がないために治療が受けられないのかどうかは分からない。ただし本当にお金に困っていると言うことだけは事実だから恵む、ということです。プライドをかなぐり捨ててでもせねばならないところにまで来ていると言うことでしょう。

威ありて猛からず。知ありて高からず。礼ありて媚びず。毅然としていながらも穏和でいて決して見せびらかさない。日本人であればある意味普通のことですが、これさえ守っていればまず日本人の評判は落ちません。ちなみに今回の出張中、一度も中国人だとか韓国人だとかに間違われませんでした。これは私にとっては誇らしいことです。

その上で日本人であると誇って頂きたい。その上で赤い菊の御紋のパスポートが威力を発揮するのだと認識して頂きたい。日本民族にただ乗りしたり、何の努力もせずに日本民族などと誇らないで頂きたいと思う今日この頃です。日本人一人一人の努力が日本人の評価を高めているのです。

皆さんも国内外で常にこのようなことを念頭に置いて頂ければ、海外の日本に対する敬意は衰えることはないと思います。

平成二十五年水無月六日

不動庵 碧洲齋