不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

露の色

昨日は友人と共にホテルから地下鉄に乗って建設機器の国際展示場まで行きました。

その道中で見聞して、ふと思ったことなど。

ホテルから会場までは地下鉄で約1時間。地下鉄の駅は基本、どの駅も日本のそれよりも大きく作られていて、閉塞感を感じません。切符は1回5回とか何種類かあり、ICチップを埋め込んだ厚紙製です。再利用はしません。ゲートも近代的で、デザインもなかなかだと思います。日本と同じくセンサーにICカードの切符をタッチさせてゲートが開くというものです。よく知られているように古い駅のデザインは芸術的です。本当に時間があったら駅巡りでもしたくなるほど。今は写真を撮っても文句は言われませんが、ちょっとみっともないので今回は撮影はなし。

一方で、車両は古い路線に関しては非常にぼろい車両で、エアコンがついておらず窓を開けないと暑くなります。当然車内で会話するのは不可能なくらいにうるさいです。走行中の車掌のアナウンスもほとんど聞き取れません。(現地人にも難しいと思いますけど)ただしそれを我慢すればエアコンがなくても窓からの風で結構涼しい。この辺り、正直日本の地下鉄がよいのかモスクワの地下鉄がよいのか、考えさせられます。

車内は古びていますが、割に清潔に保たれています。日本の車両よりも広告がずっと少ないので、少々殺風景に映るかも知れません。車内はうるさいので友人と会話もできず、自然、乗客の観察をしました。向かい合った6人掛け座席を観察すると、本や雑誌、新聞を読んでいる人が半分ぐらいで、残りは寝ていたりぼーっとしていたり。往復ともそんな感じでした。帰路、おばちゃんがスマホテトリスをしていた。読書は読んでいた人の半分ぐらいはタブレットで読んでいました。本の人は図書館で借りてきたものだったり、結構古びた本だったり。きれいなお姉さんがぼろぼろの本を一生懸命に読んでいる様を見ていると頭が下がりました。

トンネル内でも携帯は通じますが、通話している人は皆無(電車の騒音でうるさいですから)。ネットを見ている人もそんなにはいなかったようです。せいぜい経路とかの確認をしたり、短時間、メールをしていた人もいたぐらいでしょうか。ともかくネットサーフィンをしていた人はいませんでした。

老人が乗車すると、100パーセント誰か近くの若い人がさっと立ち上がって席を譲るのを何度も目撃しました。とても自然に行われていたように思います。だから立っている乗客で老人は全くいませんでした。

日本と違う光景。大学生ぐらいの若者が乗り込んできて、突然、バッグから多目的ペンを取り出して説明し始めました。LEDライト、レーザーポインター、磁石、伸縮式のポインター、ペンが一つになったもので、実演する様はなかなかでした。驚いたことに数人買っていました。私はあっけにとられていましたが、後で中国製でなければ買えば良かったと後悔。言うまでもなく車内販売は違法です(苦笑)。でもその若者の快活さ、生き生きとした様は印象的でした。必死に生きているという実感が伝わってきました。だからいくつか売れたんでしょうね。

その後、老婆が通り、何かを言いながら施しを求めてきました。身なりからして決して乞食ではなく、小綺麗にしている、品も悪くなさそうな老婦人です。友人は50ルーブルを私ながら何か言い、老婦人も何度か頭を下げて何か言ってから去りました。後で聞くとその老婦人は何か大きな病気持ちだけど、モスクワ市民権がなく、国民保険とかそういうものもないので治療が受けられないのだとか。施しをしていた人の数は少なくありませんでした。

電車の中の観察だけでも私は日本人として恥じること大でした。残念ですがこれだけでも日本人はロシア人に大敗です。エエ歳した大の大人がゲームをしていたり、漫画を読んでいたり、老人に席を譲らなかったり。高品質の電車に乗った市民のレベルはこのロシア人にも劣ると言うことです。私たち日本人は深く恥じ入って反省したいところです。繰り返しますが、彼らにとても品を感じました。

会場は幕張メッセと同じかやや大きい程度。ちょっと困ったのが国際展示会なのに英語ができる人がほとんどいない。おいおいマジかよと思いました(笑)。初め、初日は一人で来ようと思っていただけに、友人がいてくれたことがとても助かった次第。もう一つ困ったのは美人が多い(笑)。ボディコンを着た若いお姉さんがたくさんいるのですが、本当に美しい。しかも例えばアメリカ人と違って、ただの美人と言うよりはどこか可愛らしさがあるのがロシア人女性の特徴で、個人的にはアメリカ人の女性よりはずっと好感が持てました。英語が話せなかったのが残念です。逆に言えば私がロシア語を勉強する原動力になるかも(笑)。

会場のブロック路面がボコボコしてました。これは冬期はマイナス20℃以下になったり、夏期は例えば昨日などは30℃近くなったりして、その温度差でブロックの床面がでこぼこになってしまうのだとか。でも日本では北海道辺りでそんな風になるって聞いたことはないですね。その辺り、日本の技術力なのでしょう。

長くなるので会場のことは割愛しますが、毎度ロシアでうんざりさせられるのは金属探知機をくぐること。主要な会場や博物館などには必ずあるのですが、あまり気分のいいものではありません。

会場内のことは割愛します。気が向いたら後で書きます。

帰路、日本料理のレストランに行きました。「やきとりや」という店です。店は新しく、働いている人は日本人ではありませんでしたが、多分オーナーは日本人ではないかと思います。友人が好きな店で、家族で良く来るのだそうです。

担当してくれたウェイトレスさんは20代前半のアジア人。美人と言うほどではありませんが、清楚でかわいらしい感じがしました。そして話し方と声の高さがとても良い。

料理を運んだり、空の皿を持って行ったり、見える位置で待機していないのに絶妙なタイミングで来ます。その歩く姿勢もちょっと感心。健全な若者の歩き方です。(今の日本では若者でも感心するような歩き方をしている人はとても少ない)彼女は私が日本人であることを知って、味や接待方法に非礼がないか、かなり緊張したのだそうです。味は良かったと思います。少なくとも異国で食べた日本料理としては上等だと思いました。最後に友人を介して出身国を尋ねました。タジキスタンだそうです。モスクワには中部アジアから出稼ぎにやってくる人が多くいます。私は彼女に感謝を述べてから鶴ヶ岡八幡神宮の御守りを記念にプレゼントしました。恥じらいながらもとても喜んでくれたので、私も嬉しくなった次第。彼女が日本に対してよりよい感情を持ってくれることを願って止みません。

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ホテル近くの地下鉄駅から上がってきたとき、すぐ傍の非常に大きな建設現場があるのですが、そこに1台のパトカーがやってきたのが見えました。するとその入口辺りでたむろっていた5.6人の少年達が凄い形相でまっしぐらに逃げ去っていきました。パトカーを覗くと若い警察官が3人、言っては何ですが、どこぞのヤクザかと思うような大仰な格好で乗っていました。工事現場の人たちもあからさまに迷惑そうな表情でしたが、私はそれよりも若い警察官達の目つきの異常さが印象的でした。

警察官がそこで何をするかというと、工事現場の職人たちの身分証明書を点検をするわけです。巨大な建設現場です。違法出稼ぎ労働者もたくさんいます。そこで違法労働者を見つけては逮捕する代わりに袖の下を要求するということです。警察官の給料は少なく、心ない警察官はよくこの手の職務を悪用します。数年前にそれを気に病んでいたロシアの警察官の同門が来日したとき、その不正と正義の狭間で悩んでいたのを知ったのですが(本人はそういうことはしませんが、上司や同僚がそういうことをしていることに、理不尽さを感じていました)私は彼に時間はかかっても正義を貫き通すことに意義があるとかっこいいことを言ってしまいました。日本人如きが言える類のものではありませんね。もっと根が深いのです。

日本の役人の腐敗も問題はありますが、それでも他国に比べると随分とましなのでしょう。体制というか慣習が問題なのかなとも思います。

ロシアはまだまだ発展途上です。しかし地下鉄車内の光景を見るに、日本人を追い抜くことも不可能ではないと思った次第です。今度は戦争ではなく、民度で競争をしたいところですね。

平成二十五年水無月五日

不動庵 碧洲齋