不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

任務を全うするということ

今日と全く関係ないのですが、2007年11月1日に原爆投下機であったB-29エノラ・ゲイ機長ポール・ティベッツ氏が亡くなりました。92歳でした。争議は行われませんでした。墓石も設けられませんでした。米国安全保障会議NSC)の公式コメントも「気に留めてない」だそうです。

原爆は全くひどいものですし、許されるべきものではありませんが、国家の大事業を一身に背負って任務に就いた軍人をここまで屈辱的な目に遭わせるのはどうかと思います。原爆を落とした罪は彼にあるんですか?違います。彼は任務を全うしただけです。彼が原爆投下のボタンを押すまで、何年もの間、幾人もの国家元首、もしくは政府や軍の高官達が止める機会はあったはずです。一介の大佐が背負うべき責任では決してありません。

私は軍人ではありませんが、与えられた任務を全うするのは軍人として当然ですし、こんなハイクラスのミッションに指名されるのは名誉です。むろん本人も後世ここまで凄いことになるとは思ってもいなかったと思います。

私は戦争を憎みます。しかし日本もアメリカも民主国家として国民が決断を下した戦争でした。いわば国民が最終責任者です。熱に浮かされたり、相手国の挑発に乗ったり、軍人の思惑に乗せられたり、やはり国民の民度や先見の明である程度防げたのではないかと思います。だから今のアメリカ人は全く憎くありません。憎いと思う日本人はほとんどいないでしょう。何十年も前のことを蒸し返して取れるだけ取ろうとか、国内の不満をそらせようとかいうのは下劣な輩というべきです。

ティベッツ氏のように直接的に大殺戮をしてしまうようなことは人類史上、滅多にありません。そしてするべきではありません。しかし彼のように一心に専一に重要な任務を淡々とこなすような心意気はとても大切な気がします。彼は国家に対して狂信的でもなかったようですし、好戦的でもありません。ましてや日本人に対して軽蔑心を持ってはいなかったそうです。実際に日本のエースパイロット坂井三郎氏と歓談した折、意気投合したとのこと。互いに憎み合うことが他に比べて非常に少なかった戦争であったことは日米戦争で不幸中の幸いでした。宗教がらみ民族がらみ植民地がらみだったら目も当てられません。日本人の気質だったことも大いにあると思います。

自分のすべきことに集中し、全うする。何でもないことでもそれができる人ほど信頼は高いものです。私はそう言う意味でよくティベッツ氏を思い返します。

平成二十五年如月二十五日

不動庵 碧洲齋