不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

日本と日本人

当流には様々な外国人門下生が毎週のように世界中から日本にやってきます。

大抵は英語での意思疎通ですが、希に日本語が堪能な人もいたりします。それより多くの割合で英語もできない人がいます。

一時ほどではありませんが、やはり米国からやってくる人が多く、4割ぐらいでしょうか。人種のるつぼと言うだけあって、白人黒人アジア人中東系と様々です。二世三世の人も多いのですが、移民一世の人もよくいます。

通常挨拶で「どこから来ましたか?」と聞くのですが、誇らしげに「アメリカです」と答えるのを見ると、日本人としては少々複雑な心境になります。

むろん、アメリカには元々ネイティブしか住んでませんでしたから、白人と言えでも元は欧州のどこかから来ているはずです。現に留学時代、米国の友人らから色々な先祖の話を聞かされました。中には「タイタニック」ばりの話しもありました。

発展途上国や中国韓国などでは皆、アメリカに移住したいと思っている人が多くいます。米国国籍というのはそれほどまであこがれるもののようです。

私も昔、豪州に1年ほど赴任していた際、短期ビジネスビザだったので2回ほど更新したのですが、その際、移民局から私の場合は永住権が取れる資格があり、今なら国籍でも取れますよとまるでバーゲンセールのように言われ、面食らったことがあります。私は日本人のままでいいですと答えましたが、窓口担当者はこともなげに「きっとそうでしょうね」と納得してくれました。

その国の語学に堪能であっても、どれほどの日本人が外国籍になろうと思うでしょうか。多分、かなり少ないと思います。隣中国では少なくとも6割ぐらいの人は海外に移住したいという統計があるそうです。

日本人は隣国で行われているようなガリガリ、ギリギリ、グリグリ、ゴリゴリという擬音がぴったりな国粋主義とは似ても似つかない社会です。ごくごく一部の低レベルのネトウヨがネット上でたわけたことを言っているだけですが、現実的に愛国者だと公言する人はとても少ない。

が、これを以て愛国者がいないというのもまた間違いで、現に他国に逃げたいという人はごく僅かです。この辺の感覚はなかなか外国人達には分かってもらえないのかなと思います。石器時代とか、そういう古い古い太古の時代からこの小さな島に住み続け、今や世界で相当な影響力を有する国家になりました。多分、この土地と日本人の間には精神的に深く強い繋がりがあるのではないかと思います。

その証左になるかどうか分かりませんが、隣国では皇帝たるものが民衆に幾度となく討ち滅ぼされてきましたが、日本においてはその力こそ大きく変化しましたが、天皇を中心とした体制が変わったことはありません。国家という家はもちろんのこと、そこに代々住んでいる人たちをも含めて、日本人は言葉にしない深い情のようなものがあると思うのです。

多分、それは日頃、日本人の心の奥深くに沈んでいて、日本がなにか危機的な状況になると顕在化するものではないかと、ここ最近の日本を取り巻く状況を見て思った次第です。しかし深く沈んでいるものを取り出すのがいやなら、それがあると喧伝するのも嫌がる日本人は多分、なかなか外国では理解されにくい存在であることは間違いなさそうです。

平成二十五年正月二十日

不動庵 碧洲齋