不動庵 碧眼録

武芸と禅を中心に日々想うままに徒然と綴っております。

十思小学校のこと

十思小学校とはその昔、東京都中央区に存在した小学校ですが、少子化のため現在は区の施設になっています。関東大震災直後に建てられた近代的な鉄筋コンクリートの校舎で、戦時中の爆撃にも耐えたそうです。

実はこの小学校、父が昭和18年頃まで通っていた小学校でした。父はその後、空襲を避けるために兄弟共々別荘があった幕張に引っ越し、以後ずっと結婚するまで幕張の別荘を自宅としていました。

この学校が建てられた時、学校予定名は第十四小学校になるはずでしたが、同じ読みで中国宋の司馬光が書いた「資治通鑑」の中にある「十思之疏」から「十思」になったそうです。だから他の周囲の学校は数字によって命名されていたにもかかわらず、この学校は固有名詞でした。

この学校、実は江戸時代に伝馬牢屋敷があったところに建っています。吉田松陰が処刑されたところですね。

そんなことから、この学校の校風はまさに十思を基としていたそうです。

そこで十思之疏とはどんなものか、ちょっと紹介したいと思います。

見可欲則思知足

欲すべきを見れば則ち足るを知ると思う

何か欲しいと思った時は、足りれば十分なことを知って、多くを望まないこと。

将興繕則思知止

将に興繕せんとすれば則ち止まるを知ると思う

何かを直したり新しく買ったりする時は、よく考えること。

処高危則思謙降

高危に処すれば則ち謙降を思う

えらい人ほど、へりくだるようにしなければいけないこと。

臨満盈則思挹損

満盈に臨めば則ち挹損を思う

満足している時には、自慢することがないようにすること。

遇逸楽則思撙節

逸楽に遇いては則ち撙節を思う

楽したり遊んだりすることは、少なくするように心がけること。

在宴安則思後患

宴安に在っては則ち後患を思う

楽しいことをした後には、問題や心配があることを考えること。

防壅敝則思延納

壅敝を防ぐには則ち延納を思う

りっぱな人になるためには素晴らしい友人を持ち、友達の注意を聞くこと。

疾讒邪則思正己

讒邪を疾むには則ち己を正すを思う

他人を悪く思ったり、憎んだりしそうな時は、まず自分の言動を正しくすること。

行爵賞則思因喜而僣

爵賞を行うには則ち喜によって僣することを思う

誰かをほめる時には、喜んでほめすぎないようにすること。

施刑罰則思因怒而濫

刑罰を施すには則ち怒によって濫することを思う

誰かを叱る時には、怒ったまま正しくない注意をしないようにすること。

私の父も息子ぐらいの時に、戦時下、こんな教えを受けていたんですね。

機会があったら息子にも紹介しようと思います。

平成二十四年卯月二十二日 不動庵 碧洲齋