昨日、息子と不動寺の境内を掃除していたときです。
蟻地獄を見つけた息子はさも恐ろしげにして遠巻きに眺めていました。
ちなみに蟻地獄があった場所は丁度、不動堂の裏手でした。
あまりの気味悪さのせいか、しばらく黙々と落ち葉拾いをしていたのですが、やがて私に尋ねてきました。
「あのさ、蟻地獄って地獄が二つあるよね」
「なんで?」
「だって蟻が落ちていくときの地獄と、食べられてしまってからある天国と地獄の地獄があるんじゃない」
私はなかなか感心して続きを聞きました。
「どっちの地獄が本当なんだろ、どっちも本物かな?なんで地獄が二つもあるんだろ」
息子は半ば自分に言い聞かせるように呟きました。
現成公案(即席の公案)としてはなかなか秀逸のような気がします。
落ち葉拾いで頭も身体もへろへろになっていたことでしょう。
そんな時にポッと出た疑問は多分、彼の宇宙全体が大疑団に充ち満ちているのだと思います。
無論、私も真剣に考えてあげます。
しかし、これは老師への土産と言うことにして、良い質問に対して褒めました。
悉皆成仏の真理を、あの小さな身体全体で感じたのでしょうか。
父としては本当に嬉しく思い、不動堂の裏手でしたが、お不動様に手を合わせてしまいました。
蟻は死んだらどうなるのか、私は基本的には輪廻転生を説きませんので、タラ・レバ・カモは息子にはあまり食べさせません。
私はいつも、生が終わるその瞬間まで、今あるその生をあり尽すように、命を燃やし尽くすよう息子に諭しています。
来世を気にしたり、前世を気にするよりもなお、今生を目一杯生きることの大切さを信じて欲しいといつも願っています。
それが、それだけが現実世界における私たちができる唯一で最大の行なのですから。
そして多分、それこそが仏そのものなのだと思います。
毎度毎度、親バカを披露している体ですが、やはり息子を誇らしく思わずにはいられません。
SD110430 碧洲齋